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ジョブ型雇用だからこそ「チーム」が大切だ

 いま、働き改革の進展やリモートワークの普及にともない、雇用形態が従来の「パートナー型」から「ジョブ型」へ移行しようとしています。日本企業が長年親しんできた雇用形態が変わることで、私たちの働き方やチームワークはどのように変わるのでしょう?管理職は、部下との関わり方をどのように変化させていけばいいのでしょう?
不安が募る反面、企業におけるチームのあり方を見直すことで、より強いチームを作るチャンスを得ることができるのかもしれません。今回は、企業におけるチームの役割をあらためて見直し、ジョブ型雇用の時代のチームのあり方や管理職の役割についてまとめてみたいと思います。

日本企業はチームワークが得意だったのか?

日本企業はチームワークが得意だったのか?

長年、「日本企業はチームワークが得意だ」と言われてきました。本当でしょうか?
たしかに、就職するとチームに配属され、先輩から仕事の仕方を教わり、同僚と一緒に汗をかきながら数値目標を達成してきました。私たちはチームの中で仕事を覚え、同僚との信頼関係をつくり、一人前になっていったのです。


一方で、これまでのチームには、「このチームはこうあるべき」という暗黙の規範が強く、メンバーの多様性が抑えられる傾向がありました。つまりあらかじめチームの「形」ができあがっていて、新たに加わったメンバーには、その形に合わせて考えたり行動したりすることが求められたのです。


先日こんな話を聞きました。ある企業の若手社員が上司に企画書を提出したところ、「フォントが違う」と突き返されたそうです。これは極端な例かもしれませんが、あらゆることに規範を重んじる組織風土のなか、似たようなことは多くの企業で繰り返されてきたのかもしれません。
人がチームの形に合わせることは、多様性を抑制することにつながります。新たなアイデアを伝えたり、いまの仕事の進め方に違和感を唱えたりすることは、「和を乱す」行動と捉えられます。このようなチームは、全員が同じ業務を繰り返しおこなう場合には、効果を発揮しやすいでしょう。同じタスクを反復するなかで問題点を見出し、改善を重ねることで効率化が進むのです。
しかし、これまでにないチャレンジでイノベーションをおこそうとしたり、今回のコロナ禍のように未曽有の困難に直面したりした時はどうでしょう?リーダーは適切な指示を出せず、メンバーも主体的に考えたり行動したりできないなかで、チーム全体が立ち往生することにもなりかねません。

組織開発におけるチームとは何か

組織開発におけるチームとは何か

組織開発の研究者であるリチャード・ベックハードは、チームの要件として、①達成すべき目標(Goal)や②役割分担(Role)、③達成手順(Process)が明確に共有され、④メンバー間のコミュニケーション機能(Interaction)が充実していることを挙げました。それぞれの頭文字をとってGRPIモデルと呼ばれています。


GRPIモデルは、自分たちの組織の問題を抽出するための指標としてよく活用されています。従来の日本企業におけるチームを分析すると、どんなことが見えてくるでしょう?数値目標はありますがその先のビジョンはあまり意識されてこなかったかもしれません。個々の役割は不明確です。手順は共有されていたでしょうが、上意下達のチームでは手順への納得度は低かったかもしれません。コミュニケーション機能についてもタテの関係がメインで、メンバー同士が合意ですり合わせていくことは難しかったかもしれません。


私たちが慣れ親しんだチームは、同じ場所でともに汗をかきながら信頼関係を深めていくには適していたことでしょう。しかし国際標準のチームの概念では発展途上であったようです。これはかならずしも悪いことではないです。成長のための伸びしろがたくさんあるということです。

チーミング(人とチームの成長促進)の発想を生かす

チーミング(人とチームの成長促進)の発想を生かす

近年、チーミングという言葉が注目されています。ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が著書『チームが機能するとはどういうことか』(原題“TEAMING”)で提唱した言葉です。チーミングは、すでにあるチームを維持するのではなく、必要に応じてチームを再結成し新たなメンバーの協働を促すことです。


そのためには、管理職にはチームの目標を明確に伝えたり、職位や経験年数にかかわらず自由に発言できるよう促したり、目標に向かって多様な人たちの協働を促したり、失敗などの体験からともに学びあう場をつくったりする行動が求められます。チーミングは、変化の絶えない環境のなかで人々が知恵と力をあわせられるチームを運営するために適した考え方だと思います。


またチーミングで大切なことは、管理職だけがチームを統制するのではなく、メンバー一人ひとりの主体性を促すことです。リーダーシップは、必要に応じて個々のメンバーが担っていくのです。たとえば一人のメンバーが斬新なアイデアを伝えます。それに興味をもった他のメンバーがそのアイデアを具体化します。他のメンバーがそれを試してみます。誰も否定せず統制せず、主体的に関わっていくなかで未熟なアイデアが具現化していくのです。メンバー同士がリーダーシップをとりあうことで個々の多様性が生かされ、チームの力が高められます。

ジョブ型雇用時代における管理職の役割

ジョブ型雇用時代における管理職の役割

ジョブ型雇用が進むと、管理職の皆さんは不安が高まることかもしれません。
メンバーがどのように仕事をしているのか目が行き届かなくなり、どんなトラブルが生じるか予測できません。


だからこそ、従来のチームの概念にとらわれず、チーミングの発想でチーム運営に取り込むことが必要です。まず、どんなアイデアや思いも躊躇なく発言できる安全な場をつくることです。
そして、チームや組織の目標を明確にして全員のベクトルを合わせていくことです。さらに、皆の情報や体験から、組織として学びあっていく場をつくることです。このような取り組みを通じて、メンバーは成長し、おたがいの信頼を深め、チームの力が強くなっていくのです。これからの管理職には、チームをデザインし、メンバーの協働で形にしていくことを支える役割があります。


マネジメントの大家であるピーター・ドラッカーは、理想の組織を「本質において一致、行動において自由、すべてにおいて信頼」と表現しました。本質とは組織やチームのミッションやビジョン、いま向かっていくべき目標です。
メンバーが目の届かない場所で主体的に行動しても、大切な目標が共有されているかぎり、一人よがりになったりぶれたりすることがありません。むしろ一人ひとりの多様な発想やチャレンジを奨励するのがいいでしょう。新たな行動による成功や失敗から学べることは豊富です。ともに学びあうことでチームや組織は賢く、強くなっていくはずです。


ジョブ型雇用の時代は、チームを運営する管理者にとって好機です。どんな困難も乗り越えていけるようなダイナミックなチームづくりに、果敢にチャレンジしていただきたいと思います。



合同会社チーム経営 嶋田 至
合同会社チーム経営 嶋田 至
組織開発ファシリテーター。日立造船グループでITやインターネットに関するプ ロジェクト・マネジメントをおこなった後、同僚と起業しインターネットを活用 した事業開発に携わる。2008年、合同会社チーム経営(LLCチーム経営)を設 立、代表に就任。 いま、企業、医療・介護、行政、労働組合などさまざまな組織において、組織開 発のコンサルティング、ヨコ型のリーダーシップ養成、ファシリテーター育成、 対話型組織開発の支援など、「人が生き、成果があがる組織づくり(組織開 発)」を促進している。
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