一部門から始まった業務改善が全社に、カギは業務の“見える化”
一つの部門から始まった業務改善が現在では他の領域にも波及、社内に大きなうねりが生まれています。今回は、同社に改革・改善の風土をもたらしたプロジェクトについて、代表取締役社長 下川原敏博様 にお話を伺いました。
写真:(左から)森センター長 下川原代表取締役社長 宮城課長
パナソニックリビング近畿株式会社様データ
業種 |
住宅設備販売・施工 |
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規模 |
売上210憶/従業員300名 |
課題 |
プランセンターの稼働逼迫による過負荷、業務の属人化解消 |
提案 |
業務範囲・業務フロー定義による業務改善支援 |
- Introduction -
パナソニックリビング近畿株式会社は、システムキッチンやシステムバス、太陽光発電システムなどを取り扱う住宅・非住宅設備の販売施工会社です。当社に業務改善コンサルをご依頼いただいたのは、同社が大規模な構造改革により新しい組織体制に移行してから約1年後のことでした。
新体制移行後、同社ではいくつか大きな課題が生まれていました。その中でまず取り組んだのが、住宅設備プラン作成業務を行う 部署「プランセンター」の業務標準化でした。それまで各支店で行っていたプラン作成業務 を本社に集約したものの、需要増により稼働が逼迫。また集約にあたっての役割整理や業務整合などに十分な時間を割くこともできず、業務が属人化したままの状態が続き社員に過度な負担が生じていました。状況改善のため、当社からは業務の可視化と改善策実行計画を提案。現場へのヒアリングにより業務フロー・業務範囲を定義するところから、業務標準化プロジェクトが動き出しました。
いちばん問題が起きているところからプロジェクトは始まった
ープランセンターの業務標準化プロジェクトが動き出したのは今から1年前です。当時の状況からお話を伺えますでしょうか。
下川原氏:プランセンターは、10数ヶ所ある支店それぞれで行っていた住宅設備プラン作成を本社に集約した組織で、業務標準化と効率化を目指してベテランを中心に人を集めました。しかし当時の市況好転もあって依頼数が急激に増加。集約した業務をどのように良くしていくか、業務改善の議論すらできないまま一気に過剰な負荷がかかってしまったんです。負担を軽減しようにもこのプラン作成は一定の専門スキルを要する業務であり、また各支店やメンバー毎に担当している顧客も異なるためどうしても属人化していく傾向にあり、 アウトソーシングや自動化が可能な部分の判断ができない。プラン作成業務は案件受注において極めて重要なポイントです。マンパワー頼みではいずれ限界が来ることは分かっていましたが、できる人が頑張れば何とかなってしまう状態から脱却する糸口がつかめなかった。
ー住宅設備のプラン作成という業務はRPA(ロボット・システムによる業務自動化)にも向いていないですよね。当社も派遣や請負でプラン作成業務を行っていますが、人材育成にも時間がかかります。
下川原氏:そうなんです。実力のあるベテラン勢が集まることでプラン作成のノウハウを共有、業務を標準化して効率をあげることが目的でしたが、稼働逼迫により集約の次の段階に進めないまま1年が経ってしまった。マニュアル化や一部アウトソーシング化を検討しようにも議論の時間すら持てず、この状況をいつまで続けるか、続けられるかという状態です。 そんな時にたまたま御社から業務改善・BPRに関するサービスの案内をもらい、具体的な解決手段の提案を依頼しました。
業務の“見える化”により社内の業務改善の機運が盛り上がっていく
ーこのプロジェクトは当社と、同じパーソルグループのパーソルプロセス&テクノロジー社の連携でご支援させていただき、現状調査と改善策立案までをスコープとしました。外部の業務改善コンサルティングは初めてと伺っていますが、実際にやってみていかがでしたか?
下川原氏:ヒアリングによる業務の洗い出しと課題の抽出、そこからプランセンターとして行うべき業務の整理ができたことで、実行すべき改善策が明確になりました。完全な業務標準化にはまだ至りませんが、業務の“見える化”で、今まで得意先や営業からの依頼に応じる形で属人化していた業務に対して、これは本当に必要か?という議論ができるようになりました。現場でプロジェクトを引っ張ってきた課長を中心にマニュアル作成も進んでいます。改善に対する社員のマインドは明らかに変わりました。社内だけではここまでたどり着けなかったと思います。
ーありがとうございます。プランセンターの役割が明確になって、業務を集約した効果が出始めているということでしょうか。
下川原氏:そうですね。プロジェクトに関わったことでコミュニケーションが生まれ、慣習や我流で行ってきた業務の見直しが進みました。さらにプランセンターが変わったことで、プラン作成を依頼する営業や営業アシスタント の業務にも影響を与えています。“見える化”でコア業務が明らかになっているので、押しつけ合うことなく「必要ない業務はやめましょう」とお互いが納得できますから。そうすると、今度は関連部門でも“見える化”しようという話になってくる。
ー社内に業務改善の文化が波及していく様子がわかります。まさにうねりが生まれたんですね。
最初は不安もあった社員に生まれた意識の変化
ー業務改善に対して、当初から社員の皆さんは積極的だったんでしょうか。
下川原氏:いや最初は抵抗も不満もありました。うまい話ばかりじゃありません(笑) 。仕事内容を明確にして効率化するためと言っても、ただでさえ忙しいのに業務改善プロジェクト自体の負荷がかかってくるわけです。現場でも外部からコンサルが入って根掘り葉掘り業務内容を聞かれて、何をされるんだ?という不安も大きかったと思います。
我々プロジェクトチームとしても、最初は半信半疑だったところもあります。ロードマップに沿ってできなかった部分もあるし、アウトプットだけみると「それはそうだよね」としかならないものもありました。ですが、今では議論の内容や取り組み自体が血肉となっていると実感しています。そうでないと意味がない。報告書の表面的な答えより、プロセスを当事者として経験して会社の変化を実感する。これで確実に空気が変わりました。今では常に業務改善が当たり前になって、以前のやり方が思い出せないというメンバーもいますよ。
ープロジェクトに関わることで現れたいい変化ですよね。課題設定まではできても、改善策の実行や定着まで至らないケースもあるのですが、うまくいった御社では何が違ったのでしょうか。
下川原氏:プロジェクトのリーダー達が、それぞれ社内メンバーに根気強く働きかけてくれたことが大きいですね。私自身は何としてもやりきる覚悟でしたが、トップだけが意義を理解していてもそれだけでは難しい。それこそ外部コンサルが必要なくらい細かくて大変な作業なわけですから。各リーダーはこれらを実行できるスキルも備えていました。
また、業務改善はひとつの部門内で完結する部分最適ではないとメッセージを出し続けることも大切です。最初は誰かがラクをするために仕事を押しつけられるのでは?という誤解もあったようですから。会社全体が良い方向、正しい方向に向かうためのものと理解が進めば、自ずと改革の機運は生まれます。
BPRは過程のひとつ。仕事の価値を考える時間創出の手段
下川原氏:今回のプランセンターの業務改善により、これまで属人化されていた業務やフローが、誰がみてもわかる業務一覧としてアウトプットされました。業務を分解して“見える化”できれば、無駄な作業がわかり、本質的な仕事と分類できます。無駄な作業はすでに廃止しました。残った本質的な仕事のマニュアル化、システム化を進めています。業務改善が進むにつれ社員に考える時間ができて、さらに改善が加速していますね。
ーまさに今、業務改善から標準化へと進んでいるんですね。他部門への展開はいかがですか?
下川原氏:営業アシスタント や受発注業務、そして営業部でもプロジェクトを走らせています。取引先が絡む営業の業務改善は簡単にはいかないところもあるんですが、やはり作業的な業務は多くあります。見える化によって業務を効率化し、本来の仕事である提案営業にあてる時間を1時間でも2時間でも増やしたい。成長戦略のひとつとして、営業改革は会社の大きな柱 です。
ー同じ営業として身が引き締まるお話です。業務改善が今後の成長戦略のなかに完全に組み込まれているんですね。
下川原氏:折しもコロナ禍でリモートワークの導入が進み、在宅勤務やオンライン会議が当たり前になりました。組織のあり方や評価の仕方も変わっていきます。ジョブ型雇用のような評価基準をすぐに導入するのは難しくても、時代に合わせた軸を作らなければ公平な評価はできません。そのために必要なのは社員の仕事の定義。今回の業務改善による“見える化”がすべての土台になります。
今後はDX(デジタル技術による変革)やアウトソーシングも含めて、新しい働き方や管理手法の確立にまでステージを上げていきます。ここでも業務改善手法が活きてきます。コア業務は何なのか、自分たちの「仕事の価値」を考えるための材料と時間を創出した業務改善コンサルティングの意義は大きかったと考えています。
※文中の役職等は取材当時のものです
取材を終えて 同社の業務改善はこれからも続きます。今回の取り組みをきっかけにプラン作成業務の一部を当社へアウトソースされ、他にも出せる業務がないかという検討がなされています。一つの「見える化」が新たな視点をもたらし、次の活動につながり、組織の変革へとつながっています。 |