【社労士が解説】コロナ禍で増加、テレワーク下で企業が気を付けたい従業員のメンタルヘルス
コロナ禍において、テレワーク導入などによる環境の変化でメンタルヘルス不調を訴える人は増加しており、休職を余儀なくされる人も少なくありません。
今回は従業員のメンタルヘルス不調から生じる企業リスクや対策についてお話します。
メンタルヘルスに関する調査結果
メンタルヘルスに関する調査は厚生労働省で実施されており、2005年でメンタルヘルス上の理由により連続1か月以上休業した労働者がいる事業所の割合は2.6%でした。
それより5年後の2010年には5.9%、2018年は6.7%と推移しています。
従業員が1,000人を超える企業では、9割以上の事業所で連続1か月以上休業した労働者がいると回答しています。
また、昨年度は新型コロナウィルスの影響で、経済協力開発機構(OECD)の「メンタルヘルス(心の健康)に関する国際調査」によるとメンタルヘルスに支障をきたす割合が17.3%(コロナ前7.9%(2013年))であり、コロナ前と比べて2.2倍となっています。
従業員のメンタルヘルス不調から生じる企業リスク
- 休職、退職を余儀なくされる従業員の増加による周囲への負担、生産性の低下
- 注意力の低下等による事故やトラブルのリスク
- メンタルヘルス不調が労災事故として認定された場合の従業員からの損害賠償請求
メンタルヘルスの不調を引き起こすストレス内容
仕事の質・量 |
53.8% |
仕事の失敗、責任の発生など |
38.5% |
対人関係(パワハラ・セクハラなど |
30.8% |
役割・地位の変化等(昇進、昇格、配置転換) |
26.8% |
会社の将来性 |
22.2% |
雇用の安定性 |
14.0% |
その他 |
11.6% |
事故や災害の体験 |
2.0% |
出典:厚生労働省「平成 27 年労働安全衛生調査(実態調査)」
さらにコロナ禍においては急速なテレワーク普及に伴う勤務形態の変化・仕事のペースや活動の変化により、メンタルヘルスに支障をきたす要因も多様化しています。
コロナ禍におけるメンタルヘルス不調の主な要因
- テレワークによる労働時間の増加(メンタルヘルス不調の原因の一つが長時間労働)
- 過去に新型コロナウィルスに感染したことを理由とした人格否定等(職場におけるパワーハラスメントに該当する可能性)
- テレワークにおける業務の不透明な点から起こる上司からのメールなどによる過度な確認行為(職場におけるパワーハラスメントに該当する可能性)
- コロナ不況に伴う非正規社員の契約更新への不安
メンタルヘルスに関する法案
ひと昔前には、メンタルヘルスの不調は本人の性格や考え方によるものとされてきました。昨今では個人の問題にとどめず、国による対策が進み、法制化されるようになりました。
1.労働時間に関する制度の見直し
(労働基準法、労働安全衛生法 2019年4月1日施行(中小企業における時間外労働の上限規制にかかわる改正規定の適用は2020年4月1日施行、中小企業における割増賃金率の見直しは2024年4月1日施行))
時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度に設定
2.厚生労働省「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」を改正
上司や同僚等から、嫌がらせ、いじめ、暴行を受けた場合には、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の出来事で評価していたが、「心理的負荷評価表」を改正し、パワーハラスメントに関する事案を評価対象とする「具体的出来事」などを明確化。
2020年5月29日付で厚生労働省労働基準局長から都道府県労働局長宛てに通知、2020年6月から施行されるパワーハラスメント防止対策の法制化に伴い、職場における「パワーハラスメント」の定義が法律上規定されたことなどを踏まえ、認定基準別表1「業務による心理的負荷評価表」の改正が行われました。
3.パワーハラスメント防止対策義務化
労働施策総合推進法 2020年6月1日施行(中小企業は2022年4月1日施行)
職場におけるパワーハラスメント防止のために、雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となります。事業主に相談したことなどを理由とする不利益取り扱いも禁止されています。
また厚生労働省は企業推進すべき4つのケアを提唱しています。
セルフケア |
労働者自らがメンタルヘルスを理解し、自身のストレス予防を行うケア |
ラインケア |
企業の管理労働者が、部下の日常的なストレス状況を把握して改善を図るケア |
事業所内産業保健スタッフによるケア |
企業においてセルフケアやラインケアが適切に行われるよう、産業医などが支援するケア |
事業場外資源によるケア |
メンタルヘルスの専門家による外部支援によるケア |
コロナ禍の今だからこそ企業が対策するべきこと
すでに労働者が「常時50名以上」の全事業場において実施義務であるストレスチェックを行うなど、平時から従業員のメンタルヘルスへの取り組みをされている企業も増えています。
しかしながら、コロナ禍のテレワーク下ではコミュニケーションを取ることが難しく、在宅で孤立した状況が続くといわゆる“コロナうつ”に陥るケースもあります。
テレワークは労働時間の管理が難しいため、あらかじめ始業・終業時刻の報告や記録の方法を決め、長時間労働になっていないかなど、管理者が気付けるような仕組みを作っておくことが重要です。
朝会にはメンバーと報告をし合うなど、出社時より意識してコミュニケーションを取る場を設けることも必要です。
業務上の疾病として認定されたこれまでの裁判
事例例えば休業者が出た場合、以下のような対処は適切となるのか??
①有給休暇を消化する。
②就業規則に記載している休職の条文に基づいて、休職命令書で休職を命じる。
③休職命令書に記載されている休職期間の満了と同時に退職(解雇)処理をする。
企業において休職が満了したとしても、休職事由がうつ病などの精神疾患の場合には、労災事故に認定される可能性があります。この場合、労働基準法 第19条(解雇制限)に基づいて、退職(解雇)処理をすることができません。
労働基準法 第19条(解雇制限)
使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によって休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。
東芝事件(東京地裁平成20年4月22日、東京高裁平成23年2月23日、最高二小平成26年3月24日)
この事件は、うつ病に罹患した従業員(原告)が休職期間満了で解雇となり、「うつ病は業務上の疾病であり、労働基準法19条1項に基づき解雇は無効である」と主張して雇用契約上の地位確認と解雇以降の未払賃金及び安全配慮義務違反などによる損害賠償を求めた事案です。
「業務上の疾病」か否かの判断は、業務と相当因果関係のある疾病か否か、当該疾病の発症が当該業務によって起こりうると認められるか等でなされます。
原告の業務とうつ病との間の因果関係を次の①~④などで総合的に考慮し、業務上の疾病であり、解雇は無効であると判断しています。
① 就労時間
② 新たに担当することとなった業務の内容
③ 責任ある役職への昇進
④ 個体側要因(精神障害の既往症やアルコール依存関係など)の不存在
企業において休職が満了しても、業務上疾病であると判断された場合は、退職(解雇)は無効となり、ケースとしては、うつ病などの精神疾患である傾向が高いということが、この判例から読み取れます。
まとめ
メンタルヘルスに支障をきたす原因となりえるものは改善することが必要ですが、実際に自社の従業員がメンタルヘルスに支障をきたした場合の対策も検討しておく必要があります。
具体的にはリハビリ出勤を活用することが有効でしょう。うつ病になり休職したもののうち、5年以内に再発した人は半分程度と言われており、厚生労働省の調査でも復職後1年以内で30%程度、2年以内で40%という結果が出ています。
メンタルヘルス不調において、業務上の疾病として認定されることはこれまでの裁判の事例からも伺えることであり、企業としての対策は必要不可欠になっています。個人の性格や努力不足といったひと昔前の風潮は通じません。特にテレワーク下においてはコミュニケーションを取る場をしっかりと設け、従業員のメンタルヘルス不調を見逃さない工夫も必要です。