製造業の技術承継における課題の解決策
人材不足が課題となっている製造業において、企業が他社との競争のなかで生き残り続けるには、技術の承継によって若手を育成し、企業の品質を保つことが欠かせません。
しかし、厚生労働省の『平成30年度「能力開発基本調査」』によると、技能承継に課題があると回答した事業所(製造業)は86.5%に上ります。また、会社として技能承継が「うまくいっていない(あまりうまくいっていない)」と回答した企業が半数を超えているとの調査結果もあり、技術承継に課題があることが分かります。
本記事では、技術承継がうまくいかない原因となっている課題とその解決策について解説します。
出典:厚生労働省『平成30年度「能力開発基本調査」』
目次[非表示]
- 1.製造部門の技術者が高齢化している
- 2.ベテランのノウハウを承継しづらい
- 2.1.指導力の課題
- 2.2.ベテランとのコミュニケーションにおける課題
- 2.3.マニュアルや仕組みの課題
- 3.製造業に就職した若手社員が抱える課題
- 4.技術承継課題の解決策
- 5.まとめ
製造部門の技術者が高齢化している
製造部門において、難しい技術の仕事が高齢の熟練技能者に偏ってしまっている課題があります。
経済産業省『2020年版ものづくり白書』によると、2019年時点、製造業の就業者に占める65歳以上の者の割合は8.8%と2000年以降上昇を続けています。
出典:経済産業省『2020年版ものづくり白書』
ベテランのノウハウを承継しづらい
人材不足の影響により、ベテラン技術者と若手社員の両方が技術承継に手が回らないことが現場の実態としてあります。
そのほかにも、技術承継が進まない課題として指導力やコミュニケーションにおける課題が挙げられます。
指導力の課題
ベテラン技術者がノウハウやコツを適切に指導できない課題があります。
技術承継のために指導を行う場合には、座学だけではなくOJTによる指導が必要です。しかし、企業側が計画的に実施できていないケースが少なくありません。
ベテランとのコミュニケーションにおける課題
指導者と若手社員とのコミュニケーションがうまく図られていないことも原因の一つとして考えられます。
たとえば、ベテラン技術者自身が誰かに直接教わることなく技術を身に付けてきた場合、若手社員にも同じことを求めてしまい、うまくいかないケースもあります。「技術は教えなくても盗め」といったスタンスでは、うまくいくとは限らないことを理解することが必要です。
マニュアルや仕組みの課題
技術の習得をマニュアル化しようとしても、実践によって技術を身に付けるうえでは言語化できない要素もあります。
また、たとえ技術を教えたとしても定着するための仕組みが整っていない場合もあるでしょう。そのうえ、業務時間内は目の前の仕事に手一杯になってしまい、技術承継のために時間が割けないといった課題もあります。
製造業に就職した若手社員が抱える課題
製造業の入職者が減少するなか、貴重な人材である若手社員が抱える課題も技術承継に影響することがあります。主な2つの課題について以下で解説します。
意欲の課題
技能承継を受ける若手社員の意欲が不足しているケースがあります。難しい技術はベテラン技術者に任せて、そのほかの仕事を若手社員に任せるといった仕事配分が悪影響を招く可能性もあります。
ある程度の仕事を任せられるようになったことに満足して向上心を失ってしまったり、重要な仕事を任せてもらえないことから自信を失ってしまったりすることもあるでしょう。
技術面の課題
専門学校や大学で3D設計を学んだとしても、配属先が2Dで設計を行っていれば、培ってきたスキルを生かせません。また、将来を担う若手社員は新しい技術も学ぶ必要があります。
ただし、機械化・自動化できない技術については従来の技術で対応するしかありません。そうなると、従来の技術の承継に時間がかかり、新しい技術を学ぶ時間を削ってしまうこととなります。
時代についていけなくなれば、企業にとっての損失となるため、重要な課題の一つとして捉えることが必要です。
技術承継課題の解決策
技術承継の課題を解決するには、若手社員の教育プランを設定して計画的に進めることが大切です。ここでは、デジタル化や3Dモデルの活用による解決策を紹介します。
オペレーションに対するデジタル化
ベテラン技術者の技術をデータに変換して可視化することで、技能承継を円滑にする方法があります。
たとえば、製造機械や設備にIoT機器を取り付けてデータを収集すれば、商品企画や部品製造といった上流工程にデジタル技術を応用できます。
承継、効率化のポイントとなる3Dモデルの活用
3Dモデルを活用すると、ベテラン技術者の熟練した設計技術を見える化できます。
2D図面の場合は平面から立体の完成形を予測する必要があります。使用する部品の体積や重量などを踏まえながら、試作品製作前に実現の可能性を検討するフェーズも必要です。
3Dモデルの場合は図面上で部品同士の干渉チェックが可能なほか、部品に属性情報を持たせられます。経験の少ない若手も視覚的に理解できるため、技術承継が容易になります。
特に若手社員は、専門学校や大学で3D設計を学んできているため、今後は企業において3D導入が必須となります。
まとめ
少子高齢化と人材不足の波が押し寄せる製造業において、技術承継は重要な課題です。現場任せではなく、企業が主導となり計画的に承継に取り組む必要があるといえます。
企業の技術資産を失わないためにも、データ化・3D化によって行う技術承継とデータの蓄積が必要です。
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