プレイングマネジャーのマネジメントって何だろう?
いま、「マネジメントができない管理職」が増えていると言われています。リモートワークでコミュニケーションが疎遠になり、部下が問題に悩んでいてもなかなか気づくことができません。気になって関わりすぎると、ハラスメントで訴えられる懸念もあります。チームの成果が問われる一方、プレイヤーとしての自分自身の成果も出さねばなりません。残業規制などさまざまな壁に阻まれるなか、マネジャーがマネジメントすることはますます困難になっているようです。今回はそもそもマネジメントとは何かを問い直し、とくにプレイングマネジャーに求められるマネジメントのあり方を考えてみたいと思います。
そもそもマネジメントって何だろう
マネジャーの役割はチームをマネジメントすることです。では、マネジメントとはなんでしょう?あるマネジメントの教科書では、①チームの目標を定め、②目標達成への手順を計画し、③メンバーを動機づけるためにリーダーシップを発揮し、④作業の進捗をコントロールすることだと書かれています。また、人材を育成することもマネジャーに課せられています。トラブルが生じたときに被害を最小限に抑え、適切に対処することもマネジャーの役割です。
マネジメントの機能は多種多様です。変化の激しい時代ですから、前例を踏襲することもできません。マネジメント全般を、プレイングマネジャーが「自分がやらなければ」と考えるのは無理のあることではないでしょうか。目標を定めて計画をたて、目標達成に責任をもつことはマネジャーが持つべき役割ですが、ほんの少しコントロールを手放してみてもいいかもしれません。つまり、すべてを自分で抱え込むのではなく、メンバーと役割を共有してみるのです。
たとえばメンバーの動機づけをめぐる役割です。作業分担や協働を促したり、課題解決への道筋を見出したり、意思決定を促したり、意見や考え方の対立にともなうメンバー間の葛藤を解消したりすることに、メンバーの力を借りてみてはどうでしょう。
リーダーシップにはタテ型とヨコ型の2種類があります。マネジャーが指示命令でチームを動かすタテ型だけではなく、メンバーの力を借りてチーム運営を担うヨコ型のリーダーシップを考えることは、これからのマネジメントを考えるときのヒントになるかもしれません。
ヨコ型のリーダーシップをマネジメントに生かす
タテ型のリーダーシップは、自分がすべてを判断し指示命令によって部下を動かす関わり方のことです。いわゆるトップダウン型のチーム運営で、マネジャーの統制が効きやすく効率性を高めることができます。マネジャーが最適な処理方法を熟知している場合は、このようなリーダーシップが有効ですが、マネジャーの負担が大きくなったり、部下のマネジャーへの依存度が高くなったりすることも生じがちです。「指示待ち部下」が増えてマネジャーの負担増にもなりかねません。
ヨコ型リーダーシップは、指示命令ではなくメンバーが自律的に行動することを支える関わり方です。ワイガヤの話しあいの中で今取り組むべき課題を見出し、各々の持ち味を生かした協働を通して目標達成に向かうことを促します。リーダーはチームがめざすべき目標を示し、メンバーを励ましながらも、メンバーが自分で考え行動することを尊重します。
メンバーのスキルが低い場合はタテ型のリーダーシップを徹底することが求められますが、ある程度の経験を積んだ後、自律的な成長を支えるにあたっては、ヨコ型のリーダーシップにもとづく関わり方を増やしていくことが必要でしょう。しかし、ヨコ型リーダーシップの実践はけっこう難しいものです。何も言わなければメンバーは期待どおりに動いてはくれません。指示命令するとメンバーの主体性を損なってしまいます。
ヨコ型リーダーシップ実践の要諦は、ポジティブフィードバックを多用することにあります。
ポジティブフィードバックをマネジメントに生かす
フィードバックは、ビジネスの世界では「評価」の意味で使われがちですが、本来は少し異なります。元々は電子工学で使われた言葉で、あるシステムの出力したものが対象にどう影響したかを、システムに返すことだそうです。チーム運営においても同様です。ある人の発言や行動が、他者やチーム全体にどんな影響を与えたのかを伝えたり受け取ったりすることがフィードバックです。
たとえばミーティングの冒頭でAさんが口火を切ったことで、他のメンバーが発言しやすくなったとします。ここで、「Aさんが口火を切ってくれたから、私たちは発言しやすくなったよ」と伝えることです。褒めたり評価したりするのではないのです。「鏡になること」という言い方もできます。今ここで現実におこったことを、「鏡」である私はどのように見て感じたのかを、ありのままに伝えることです。このように、Aさんの行動を肯定的に受け止め、「これからも継続してほしい」といった思いを伝えることが、ポジティブ(肯定的)フィードバックです。
フィードバックには、ネガティブ(改善を促す)フィードバックもあります。これは「ミーティングの冒頭、あなたに口火を切ってほしかった」など、相手がしたことやしなかったことに修正や改善を促すことです。私たちは他者の足りないところに注意が向きがちなので、ネガティブフィードバックを好む傾向があります。しかしネガティブフィードバックばかりだと、メンバーの主体性は弱まり、防御的な態度が顕著になってチームの力は弱まります。
ポジティブフィードバックは、メンバーがチームにどう貢献しているのかを認め、継続を奨励することです。マネジャーが日常的にポジティブフィードバックを伝えることでメンバーは自らのポジティブな面に気づき、動機づけられ、チーム内の協働の質が高められていきます。
「管理すること」から「大切にすること」へ
一般的にマネジメントは「管理すること」だと考えられがちです。管理という言葉には、規格から逸れないように維持・改良を続けるといった意味合いを感じます。チームを管理しようと考えると、一人ひとりの行動や業績をこまめにチェックして、一挙一動の修正に注意が向きがちです。それはネガティブフィードバックの多用を促し、マネジャーの負担を増やすことになりかねません。
マネジメントを「管理すること」ではなく「大切にすること」だと考えてみてはどうでしょう。たとえばタイムマネジメントは時間を大切に扱うこと、ナレッジマネジメントは組織内の知識やノウハウを大切に扱うことです。そして、チームマネジメントは、チームを構成するメンバーを人として尊重し、その人のポジティブなところを見出して、主体的な行動を促すことです。
メンバー一人ひとりのポジティブな面に光を当て、より良い協働を促してみること。こんな関わり方が、チーム全体でチーム運営を担うことにつながっていくはずです。マネジャーはチームの目標を定めて計画をたて、チームの力を借りながら目標達成を進めていくことによって、自分一人では成しえないような、チームの底力を高めていくことができることでしょう。