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タテ割り組織に「ヨコ串」を刺せるマネジャーになる

「タテ割り組織の弊害」は以前から多くの組織で問題とされてきました。組織は「分業と調整」によってデザインされています。機能や製品ごとに部門を設けて、品質を向上させたり専門知識を深めたりすることで組織の成長を促してきました。タテ割り組織そのものは悪いことではありません。ただ、タテ方向しか見ないでヨコ方向の連携をおろそかにすると、タテ割り組織は「たこつぼ」の集合体となって、各々の取り組みが組織全体の成果につながりにくくなるのです。たこつぼ化を避けてヨコ方向の連携を促すこと、すなわち「ヨコ串」を刺すことが人と組織の成長のために必須なのです。今回はダイアログ(対話)というヨコ串に注目してみたいと思います。


分業と調整がもたらす弊害

組織の特徴が「分業と調整」であることは、営利組織でも非営利組織でも同じで、大きな組織でも小さな組織でも同じです。分業は、業務における役割を分けることでその専門性を高めていくことです。調整は、分業を担う人たちの活動を他の部門の活動とさまざまな形で連携させることです。分業と調整を最適化することで各部門の活動がひとつの組織の動きとして統合され、より良い価値を生み出すことが可能となるのです。

ところが、部門内で専門性が高まり凝集性が高まると、他部門との間に見えない「壁」のようなものができたり、あるいは競争意識が高まってむやみに対抗意識が生じたりもします。そのままにしておくと調整作業が疎かになって、社内の信頼関係やヨコ方向のコミュニケーションにネガティブな影響を与えかねません。

タテ割り組織の弊害を解消するために、さまざまな試みがおこなわれてきました。ひとつはジョブローテーションと呼ばれる定期的な異動や転勤です。異なる部門で働くことで、ヨコ方向のコミュニケーションが容易になるでしょう。ただし、ジョブローテーションをやりすぎるとチームづくりが中途半端になって専門性が養われなかったりするので、バランスをとることが必要です。また、社内運動会など皆の協力が求められる楽しいイベントをおこなうことで、タテ割りの壁をこえてコミュニケーションをとることも試みられています。


ダイアログ(対話)というヨコ串を刺す

 これを読まれている皆さんは、一部門のマネジャーの立場の方が多いことと思います。今回お伝えしたいことは大掛かりなことではなく、皆さんがちょっと席を離れてできるようなことです。それは、「他のマネジャーたちとダイアログをしてみませんか」という提案です。

ダイアログは「対話」と訳され、会話や議論といった話しあい方と区別されます。会話はリラックスしたなかで交わされるおしゃべりです。議論はあるテーマについてたがいに意見を主張しあいながら意思決定を導く、真剣な話しあいです。ダイアログは、リラックスした雰囲気のなか、あるテーマについて深く掘り下げたり、おたがいの思いや課題を共有したりする真剣で探求的な話しあいです。

ダイアログはまた、組織開発の基盤としても用いられます。ワールドカフェやAI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)といった対話型組織開発の場を体験された方も多いと思います。本当に安全な場で自分たちの思いや問題意識を語りあうことができると、それだけでもおたがいの心理的距離感が縮まるものです。

マネジャー同士の会議の後や仕事の合間の短い時間に、1対1あるいは少人数でダイアログをおこなってみると、組織のヨコ方向の関係性に大きな変化が生じることでしょう。はじめは雑談でもいいです。「また残業時間が規制されるらしい」「困ったね」など。これについて自分はどう思っているのか、どんなことを課題に感じているのかなど、すこし掘り下げたことを切り出してみるといいかもしれません。「そもそも残業ってなんだろう」「もっと自由に働いてもいいのではないか」など、自分の価値観・職業観や「こうなったらいいな」というビジョンなどを伝えてみることから、ダイアログは始まります。


ダイアログを深める関わり方

 ダイアログで大切にしたい関わり方は、傾聴です。傾聴は相手の言葉に耳を傾け応答することで、言葉の背後に隠れた相手の意図や気持ちを理解しようと試みることです。言葉として発せられることは相手の思いのほんの一部にすぎません。言葉が発せられた後の沈黙のなかで次の言葉を待ったり、自分が理解したことを自分の言葉で伝え返したり、さらに相手の言葉を受けとったりすることで、言葉にならなかった相手の思いや気持ちの理解がすすみます。傾聴はキャッチボールに例えられます。聞くことと応答することの繰り返しを通じて、おたがいの思いを共有することができるのです。

もうひとつ大切なことは、自分の主張に固執しないことです。自分のなかの「常識」や「こうあるべき」といったことを、いったん脇に置いてみるのです。相手の言葉をきいて「それは違う」と遮ったり否定したりすると、議論になってしまいます。対話を続けるためには、相手の考え方やものの見方を尊重して、最後まで話を聞いてみることです。賛成や反対はさておき、「なるほど、そう思われているのですね」と、いったんはそのまま受け取ってみることです。

もしかしたら、「自分は今までこんなふうに考えてきたが、この人のような見方もできるかもしれない」など、自他の考え方の差を感じながら、あらためて自分の考え方や行動のしかたの傾向を見直してみることができるかもしれません。


率直なダイアログが「関係の質」を高める

自分の思いを語ることは、けっこう躊躇するものです。「こんなことを話したら笑われるかもしれない」「弱みを見せると足元を見られるかもしれない」という恐れが伴います。人が他者と関わるとき、さまざまな懸念や不安が生じることは、多くの心理学者が明らかにしています。大事なことは、あなたが感じている恐れは、相手も同じように感じているということです。恐れに捉われて黙っていると、おたがいの間にダイアログは生じません。より良い関係づくりは、自分自身が変化することから始まります。変化とは自分の考え方や行動を、主体的に変えてみることです。自分の変化が相手との関係性に変化を促し、おたがいの理解や信頼関係を促します。

たしかに、笑われたり足元を見られたりするリスクはゼロではありません。でもそれ以上に、共感してくれたり、励ましてくれたり、支えてくれたりする仲間が増えることでしょう。おたがいの思いを共有することは、タテ割り組織におけるマネジャーの孤立をなくし、ヨコ方向に支えあえる関係性を築いていくことにつながります。

ちょっとした勇気をもって一歩前に足を踏み出してみると、まわりの景色が変わってきます。マネジャー同士のダイアログは、ほんの小さな取り組みにすぎません。しかし、ダイアログが職場のあちこちに広がっていくと、タテ割り組織にグサッと刺さるヨコ串になるはずです。



合同会社チーム経営 嶋田 至
合同会社チーム経営 嶋田 至
組織開発ファシリテーター。日立造船グループでITやインターネットに関するプ ロジェクト・マネジメントをおこなった後、同僚と起業しインターネットを活用 した事業開発に携わる。2008年、合同会社チーム経営(LLCチーム経営)を設 立、代表に就任。 いま、企業、医療・介護、行政、労働組合などさまざまな組織において、組織開 発のコンサルティング、ヨコ型のリーダーシップ養成、ファシリテーター育成、 対話型組織開発の支援など、「人が生き、成果があがる組織づくり(組織開 発)」を促進している。
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