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「関係の質」がチームを強くする 新メンバー配属はチームづくりのチャンス

春は新入社員や部署異動などで新しいメンバーがチームに入ってくる季節です。マネージャーは新たなメンバーを迎えてチームワークがうまくいくのか気になるところですね。

最近、人事系では“オンボーディング”という言葉が良く使われます。新しく会社・組織に加わった人材にいち早く職場に慣れてもらうことで、組織への定着・戦力化を促進するための取り組みのことですが、まだまだ新しい人を馴染ませるのは現場にお任せのところがほとんどのようです。

配属されたにもかかわらず、現場が忙しくて放置されている状況だと、「自分は必要とされてないのではないか」「期待されていないのではないか」と不信感が高まり、最初のやる気がすっかり冷めてしまう可能性もあります。そんなことがないように早めに組織に馴染ませる機会が必要です。今回は、新しい人が入ってくるのをきっかけにし、チーム全体の関係の質を高めていく方法についてお話しします。


見えない不安を考える

見えない不安を考える

受け入れるメンバーもどんな人が来るのだろうと期待と不安が入り混じった気持ちでしょうが、入ってくる人はそれの何倍も不安なものです。

2021年度の新入社員の調査(リクルートマネジメントソリューションズ)によると、仕事・職場生活をするうえでの不安は?という問いに対して

  • 「仕事についていけるか」(65.7%)
  • 「自分が成長できるか」(38.8%)
  • 「先輩・同僚とうまくやっていけるか」(38.6%)

という答えが出ていました。

職場に配属されても、仕事がわからないとも言えず、周りの様子を伺い、気楽に尋ねることもできない状態がしばらく続くのではないでしょうか。コロナ禍の影響で、大学時代の授業やインターンシップはオンライン、入社してからの導入研修もオンラインと言うケースが増えています。さらには配属後までもリモートワークと言うケースも少なからずあります。彼らはこのような環境を経験しているため、今までの人たちより人間関係に不安を持つことが多いようです。


最近、”心理的安全性”という言葉をよく聞くようになりました。グーグル社が4年間自社のチームの調査をして、生産性に一番影響のあったのが心理的安全性(psychological safety)だったという発表をして以来、注目され続けています。研究者のAmy Edmondson教授は「対人関係においてリスクのある行動をしてもこのチームでは安全であるという、チームメンバーによって共有された思い」と定義しています。彼女は職場環境には4つの対人不安があると言っています。

  • 無知だと思われる不安、「こんなことも知らないのか」
  • 無能だと思われる不安 「こんなこともできないのか」
  • 邪魔していると思われる不安 「あの人のせいで、進まない」
  • ネガティブだと思われる不安 「後ろ向きなことばかり言うなあ」

このような不安を乗り越えて、思ったことを率直に発言しても安心できるという感覚が心理的安全性が高いということです。それぞれの心の中にある不安を出来るだけ早く解消し、お互いに信頼関係を築くことが大切なのではないでしょうか。


お互いに人として知り合う重要性

お互いに人として知り合う重要性

今の時代の組織のメンバーは、効率が求められ、常に評価され余裕がないし、安心感もない状態です。上司やリーダーもハラスメントと言われかねないので深く部下に関わるのを避けている人も多いのではないでしょうか。心理的安全性は、何でも言い合えて仲の良いぬるま湯組織を目指すのではありません。厳しい仕事環境を乗り越えるため心理的安全性を高めて、安心して鋭い議論、指摘ができる関係性を作り、失敗を恐れずにチャレンジする環境を作ることが重要なのです。

大切なことは、ひとりひとりを”人として知り合う”ことだと思います。その人がどのような思いで仕事をし、どんな価値観を持っているのかをお互いにわかるようになれば、信頼関係が醸成され、不安なく仕事ができるのではなのでしょうか。

「信頼関係を作りましょう」と言葉にするのは簡単ですが、すぐにはできません。まずはお互いを知る機会を増やすことがスタートです。お互いの、仕事の進め方、考え方、期待と不安、価値観など、プライベートも含めて自発的に自己開示ができる場を作ることが必要なのです。


お互いのことを知る機会を意図的に作る

お互いのことを知る機会を意図的に作る

新しいメンバーが入ったり、新しい期が始まるときに、今まででしたら“歓迎会”“親睦会”という名の飲み会を設定することが当たり前でしたが、お酒を飲んで本音を言って仲良くなるというのは昭和の幻想です。今の若い人達にとって職場全体の飲み会はマイナスにはたらく方が多いのかもしれません。ここは思い切ってお互いを知ることだけを目的としたミーティング(ワークショップ)をする方が、チーム作りには何倍も効果があるのではないでしょうか。

私たちが組織づくりで企業に関わるときによくおこなうワークをいくつかご紹介します。


お互いの期待のすり合わせ(ドラッカー風エクササイズ)

ドラッカー風エクササイズとは、アジャイル開発の人たちがチームビルディングに使う手法です。4つの質問の回答を共有することで、お互いの考えや価値観、期待のすり合わせを行うことができます。

  • 自分は何が得意なのか?
  • 自分はどういうふうに仕事をするか?
  • 自分が大切に思う価値は何か?
  • チームメンバーは自分にどんな成果を期待していると思うか?

新人が入る時には、「このチームに入るにあたり不安があるとすればなに?」のような質問を足してもいいかもしれません。

WEBで多くの実施例が公開されていますので参考にしてください。


偏愛マップ

明治大学の齋藤孝氏が開発したコミュニケーションメソッドです。

1枚の紙に、自分の偏愛するものをキーワード方式に書いたもの(マップ)です。書き方は自由です。ポイントとしてはただ「好き」だけではなくこだわっているというもの。例えば、○○の○○カレーのスパイスが好きとか、初代ガンダムのガンプラとか、仕事をスタートするときには文房具の整理から始めるとか、偏愛(萌え~なもの、こだわっているもの)していることを、視覚化して書き出す一種の自己開示です。偏愛マップという本もでています。


チェックイン

会議や朝会、勉強会で「場に入る」という意味で行います。私たちは儀式のように必ず行います。基本的には、参加者が順番に、1分以内で、今の気持ち、最近嬉しかったとこ(good&new)

、参加の意図や期待などを語ってもらいます。簡単なことですが、これが安心安全の場を作る第一歩になります。ある組織では、ミーティングのたびに丁寧にチェックインを続けていると、だんだんメンバーが少しずつお互いに興味を持ち、信頼していくようになったそうです。あるとき「このチームに関わってよかったことは?」との問いで会議を始めたら、メンバーがそれぞれ自分の深い思いを語り、チームの雰囲気ががらりと変わったそうです。チェックインをミーティングに導入してチームが変わっていったという人が何人もいます。簡単な方法なのでぜひやってみてください。


まとめ

大切なのは、上司がリラックスし、ユーモアを持つことです。自己開示を強制するのではなく、上司から自己開示することが大切です。人は相手の自己開示を見て自分のことも言ってもいいかなと思うものです。

コロナ禍になり働き方が大きく変化しました。リモートワークも増えていき不安も増えて、分断が進んでいるように感じます。一緒の職場で働いているうちに自然に信頼関係が生まれていくことはほぼありません。新しい人が入って組織の環境が変わる今の時期に、少しの時間を関係性の構築に使うことが、関係の質を高め、信頼が生まれ、結果的に早く組織の成果を上げることにつながると思います。出来るとことから取り組んでみてください。



合同会社チーム経営 広瀬 義浩
合同会社チーム経営 広瀬 義浩
組織開発コンサルタント、近畿大学非常勤講師(ファシリテーション担当) セミナーの企画・運営会社経て、2006年:LLPチーム経営研究所を設立。2008年合同会社チーム経営の設立に参画。企業、行政などで、ワークショップ型の研修を行ったり、組織開発コンサルタントとして組織の中に支援者として入り組織の風土を改革している。最近ではマインドフルネスやシェアドリーダーシップ、心理的安全性などの内容が増えている。
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