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チームメンバーは言いたいことが言えてますか?

いま、「心理的安全性」という言葉がネットメディアや雑誌に溢れています。しかし、心理的安全性をきちんと理解している人や実践に取り組んでいる人は、それほど多くないように感じます。

心理的安全性とは、誰もが自分の考えや感情について気兼ねなく発言できることです。職場に心理的安全性があれば、ちょっと厳しいことを言いあったり、本音を隠さずに話しあえたりできるようになります。

今回は、心理的安全性がなぜ求められているのか、どうすれば実現できるのかを、心理的安全性の研究者であるエイミー・エドモンドソン氏の著書『恐れのない組織』(英治出版)を参考にしながら、探ってみたいと思います。

「言いたいことが言えない」という学習性無力感に気づく

「言いたいことが言えない」という学習性無力感に気づく

以前、私はときどき「ワールドカフェ」を開いていました。仕事帰りにさまざまな職種・立場の人たちを集めて、ワイワイガヤガヤと話しあっていただくのです。ワールドカフェのおもなルールは、「トーキングスティック(棒やオブジェ)」を持った人だけが話す権利をもち、他の人たちは口を挟まずに耳を傾けるというものです。話し手は自分が伝えたいことを、じっくりと話すことができるのです。

ワールドカフェが終わって感想を聞くと、「ここでは私の話を聞いてもらえてうれしい」といったことがよく話されました。ふだん働いている場所では、自分の話を最後まで聞いてもらえていないのでしょうか。あるいは、発言することさえ憚られる雰囲気なのでしょうか。

話すことが制限されている職場や、話すことでなんらかのペナルティが生じるような職場(たとえば改善案を進言すると「ルールに従え」と怒られる、など)は、働く人たちのモチベーションが下がり気味です。おたがいに何を考えているかわからないので情報共有が滞ったり、同じような失敗が続いたり、事故がおこりやすくなったりもします。

「学習性無力感」という言葉があります。言いたいことが言えなかったり、まともに聴いてもらえなかったりすることが続くと、いつの間にかそれが「あたり前」のように思えてしまい、もう何も言わなくなってしまうのです。ですから、たまに「言いたいことが言える場」に接すると、「話を聞いてもらえてうれしい」といった感情が湧きおこってくるのでしょう。

心理的安全性は「ぬるま湯」ではなく業績向上の条件

心理的安全性は「ぬるま湯」ではなく業績向上の条件

心理的安全性という言葉は周知されている反面、ずいぶん誤解も多いようです。『恐れのない組織』でも書かれていますが、心理的安全性を「ぬるま湯」のように理解する人が多いのです。和気あいあいとした雰囲気のなかで、お気楽におしゃべりをしながら仕事をしているイメージでしょうか。でもこれは、心理的安全性とは関係ありません。

心理的安全性は、言いたいことが率直に発言され受け入れられる状態のことです。褒めたり感謝したりすることもあるでしょうが、ときには厳しい指摘や、あまり聞きたくない批判を受けることもあります。けっして「ぬるま湯」ではないのです。

エドモンドソン氏は、心理的安全性と業績基準(業績を上げることへのプレッシャー)との関係を解説しています。業績基準が低い職場で心理的安全性があると、人々は気持ちよく仕事をすることができます。でもここでは難しい仕事にチャレンジする意欲も、もっといい仕事をしようといったモチベーションもおこりません。いわゆる「ぬるま湯」状態です。

心理的安全性は、業績基準の高い職場にこそ必要です。業績基準が高いだけで心理的安全性が低いと、人々は自分の考えを表明することにビクビクします。不安な気持ちのなかで仕事の質を落とし、職場の安全も担保されません。現実には、このような職場がたくさんあるのかもしれません。このような職場に心理的安全性が実現すると、どんな変化がおこるでしょう。おたがいに思いを伝えあうなかで協力が生まれ、おたがいの発言から学びあい、複雑で革新的な仕事をやり遂げることができるのではないでしょうか。

『恐れのない組織』では心理的安全性の事例として、アメリカ最大のヘッジ・ファンドであるブリッジウォーター・アソシエイツ社が紹介されています。創業者のレイ・ダリオ氏は、「率直さ」と「透明性」、「失敗から学ぶ」といったことを通して組織全体の心理的安全性を培い、企業の成長を促進させてきました。同社では、すべての社員の業績や失敗が社内で共有されています。そして、立場に関係なく誰でも他のメンバーにフィードバックできる仕組みを作っています。そうすることで、同じような失敗を繰り返すことなく、相互の厳しい監視のなかで業績アップへ邁進することができるのです。これはけっこう厳しい事例ですが、心理的安全性の実現方法の多様さを示しています。

心理的安全性の実現に向けた3つの方法

心理的安全性の実現に向けた3つの方法

また『恐れのない組織』では、メンバーが発言しやすくするための3つの方法が紹介されています。

  • 上司が謙虚さを示す
  • 発言を引き出す問いを出す
  • 意見を引き出す仕組みを作る

という方法です。

謙虚さを示すとは、上司が「知らない」「わからない」と率直に発言することです。何もかも分かっている上司などいません。積極的に「知らない」を連発して、教えてもらうようにするのです。失敗体験を積極的に話すことも大事です。たくさんの失敗から学べる組織は強くなるはずです。失敗体験を話すことを歓迎する雰囲気づくりも、マネジャーの役割でしょう。

「問いを出す」とは、イエスかノーではなく、深く考えることを促すような質問です。「少し不安なんだけど、本当に今のやり方でいいのかな?」と皆に質問を投げて、しばらく待ってみるといいでしょう。仕事上で「正解」のあるものはほとんどありません。どんな場合でも別の見方やアイデアがあるはずです。

「仕組みを作る」は、お互いに意見を出しあうような対話の場を作ったり、ルールを設けたりすることです。ある病院では、看護師が医師に発言するときは「同じ発言を2度言ってもいい」というルールを作っています。看護師の発言に医師が無反応だった場合、看護師は医師がどう受け取ったかを知ることができません。理解したのか「言われなくても知ってる」と思ったのか。もし聞こえていなかったとしたら、患者さんに危険が及ぶかもしれません。「2度言ってもいい」というルールがあると、躊躇するなくもう一度伝えることができます。

「小さな成功体験」を積み重ねる

「小さな成功体験」を積み重ねる

皆さんの職場ではどんなルールが考えられるでしょう?「誰かが発言中は途中でさえぎらない」とか「スケジュールはチーム内で共有する」などから始めてはどうでしょう?あなたの部下はいつあなたに話しかけたらいいのか、迷っているのかもしれません。上司のスケジュールを確認できるなら、「ちょっといいですか?」と声をかけやすいのではないかと思います。ほんの小さなことでもルール化すると、心理的安全性を高めていくことが容易になるだろうと思います。

学習性無力感を打ち破るには、「小さな成功体験」を積むことが必要です。上司が謙虚さを示したり、意見を引き出しやすい場を作ったり、なんらかの取り組みを始めることで、着実に「言いたいことが言える場づくり」が培われるはずです。

心理的安全性は、今よりも創造的で効果的な業績をあげるために必要な基盤です。チームの業績と人の育成に携わる皆さんが、率先して取り組む価値のあることだと思います。

合同会社チーム経営 嶋田 至
合同会社チーム経営 嶋田 至
組織開発ファシリテーター。日立造船グループでITやインターネットに関するプ ロジェクト・マネジメントをおこなった後、同僚と起業しインターネットを活用 した事業開発に携わる。2008年、合同会社チーム経営(LLCチーム経営)を設 立、代表に就任。 いま、企業、医療・介護、行政、労働組合などさまざまな組織において、組織開 発のコンサルティング、ヨコ型のリーダーシップ養成、ファシリテーター育成、 対話型組織開発の支援など、「人が生き、成果があがる組織づくり(組織開 発)」を促進している。
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