業務改善の進め方と事例を紹介 成功のポイントや使えるフレームワークも
働き方改革やコロナ禍でのテレワークシフトで仕事の進め方が大きく変わり、企業の生産活動における「業務改善」の必要性が増しています。
本記事では、具体的な業務改善の進め方とともに、押さえるべきポイントや実践で使えるフレームワーク、成功事例を合わせてご紹介します。
目次[非表示]
- 1.業務改善とは?目的と考え方
- 2.業務改善の進め方を5ステップで解説
- 2.1.業務改善ステップ1:可視化
- 2.2.業務改善ステップ2:課題整理
- 2.3.業務改善ステップ3:ゴール設定
- 2.4.業務改善ステップ4:改善範囲の明確化
- 2.5.業務改善ステップ5:改善実行
- 3.業務改善のポイント
- 3.1.常にQCDのバランスを念頭におく
- 3.2.自分ごと化できるまで目的を共有する
- 4.業務改善の事例紹介
- 5.業務改善に終わりはない
業務改善とは?目的と考え方
業務改善とは、業務の内容やプロセスを見直すことで企業の生産性を高めようとする活動全般を指します。
具体的な手段は改善を目指す業務によって変わりますが、作業時間の短縮、業務工程の簡略化、品質の強化など、今より効率よく商品やサービスを提供することを目的に行われるものは、すべて業務改善です。「ムリ・ムダ・ムラ」をなくす、「スピード・スリム・ストロング」の3Sなどとも呼ばれますが、意味するところはほぼ同じです。
このような直接的な目的以外に、業務改善に取り組むことで社内の意識や行動の変革を促し、自発的な改善が継続する強い組織を作る狙いもあります。
業務改善の進め方を5ステップで解説
業務改善の具体的な進め方を以下の5ステップで解説します。
業務改善の進め方5ステップ
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それぞれ考え方と具体的な手順、また検討や提案時に使えるフレームワークも合わせて紹介します。
業務改善ステップ1:可視化
業務改善の具体的な進め方として、まず取り組むのは業務の可視化です。オフィスワークの場合、製造現場ほど業務内容やスピード、成果がはっきりと見えません。担当者まかせになっていて、管理者含め他の社員がまったく業務内容を知らないケースは多くあります。対象業務を理解できるよう「見える化」しておくことは重要です。
また、すでに滞っている業務があり早急に改善が必要な場合にも、ピンポイントで改善を検討するのではなく、対象業務の範囲を広げて可視化します。全体像が見えないうちに改善手法の検討や実行を行うと、思わぬところに影響がおよび、改善の効果を打ち消してしまうことがあるためです。押し付け合いなど、社内での軋轢を生まないよう注意しましょう。
業務の可視化はヒアリングを中心に行います。業務に直接携わる担当者、部署、また関係部署まで漏れなく聞き取りを進め、業務の全体像を把握します。さらに業務の棚卸表や業務フロー図を作成し、作業を細かく分解していきます。作業時間なども可能な限り正確に記載することで、次のステップの課題整理につながります。
ヒアリングの際は、できるだけ利害関係がない人間を聞き役に、先入観なしでありのままを聞くのがポイントです。従業員にとって、直属の上司などにありのままの業務量や内容を話すのは気が引けるものです。ここは業務改善ステップのなかでも難しく、かつすべての土台になる重要な部分なので、時間がかかっても慎重に行いましょう。
業務改善ステップ2:課題整理
ステップ1により、業務の種類や工程が可視化されます。次は、それら業務の全体像をみて、課題を発見・整理します。
この段階では、全体を俯瞰して課題を探る意識が大切です。すでにボトルネックであることが明らかになっている業務に対しても、実作業だけで判断すると「担当者のスキルが問題」のような課題設定になりがちです。範囲を広げて検討を進め、業務の流れのなかで課題を見つけるようにします。
見つかった課題は、数や規模、難易度、関係者(部署)などにより分類していきます。そこからさらに、業務マネジメントや業務フロー、部署間のつながりなど、複数の視点で課題を整理していきます。
業務改善ステップ3:ゴール設定
次は、整理した課題への優先順位付けとゴール(KGI)の設定です。課題を改善することでどうなりたいのか、会社や組織としての在り方を明確にします。設定したゴール次第でどのような改善策を実施するのかが決まるので、業務改善の結果を左右する重要なステップです。
ゴール設定に使えるフレームワークとして「QCD」があります。Quality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)の頭文字で、もとは製造業においてクリアすべき不可欠な要素として知られていたものです。「生産性とは何か」に対する解とも言えます。現在では、企業活動全般を通して重要な考え方として利用されています。
QCDとは
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このQCDを満たす、またより高いレベルを目指すという視点でゴールを考えることで、業務改善によって「どうなりたいか」という曖昧で定性的な目標も、明確な達成指標として設定しやすくなります。
また、QCDを意識することは、部分的な業務改善によって全体の生産性が下がってしまうといった悪影響を防ぐことにもなります。単純な例として、「コストを削減したために品質が下がった」のようなケースです。3要素は密接につながっており、基本的にはトレードオフの関係にありますが、いずれかの要素だけを満たす極端なバランスにならないよう、最適な水準を探ることが大切です。
業務改善ステップ4:改善範囲の明確化
ステップ3で設定したゴールに向かって、どの業務、どのプロセスを対象に改善を行うのかを絞り込み、範囲を明確にしていきます。
すべての課題を一度に改善しようとしてもうまくいきません。一つひとつの課題に対して影響範囲を見極め、不測の事態が起こってもすぐに対処できる範囲で計画を立てることが重要です。
改善範囲の明確化には、ステップ1で可視化したタスクのほか、投下できる予算や時間、プロジェクト体制の詳細などが必要です。これらを元に具体的な実行スケジュールを組んでいきます。
業務改善ステップ5:改善実行
ステップ4でフォーカスした業務に対して、改善策を実行します。
改善を目指す業務によって手段は変わりますが、発想の起点になるフレームワークとしてECRS(イクルス)がよく知られています。
ECRSとは
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排除、結合、組み替え、簡略化の英語の頭文字をとってECRSです。覚えやすく使い勝手のいいフレームワークなのですが、Simplify(簡略化)のなかにシステム化(自動化)の概念が含まれるなど、直感的につながりが理解しづらい部分もあります。
実際の検討では、さらに視点を分けることで改善策を考えやすくなります。
改善策の視点
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このなかでコストがかからず、すぐに改善効果が出るのは「廃止」です。報告書や押印業務などがイメージしやすいのですが、どのような課題でもまず「その業務は必要か?」を考え、廃止できないかを検討します。
その他の手段は業務内容によって検討順が変わりますが、「自動化」に関しては最後、少なくとも集約や簡略化について十分に検討を尽くしたあとになります。削減できるはずの工程を含んだまま、システムなどを導入するリスクを避けるためです。
業務改善は、改善策の策定・実行・検証の繰り返しです。実行計画書を作成し、経過をモニタリングしながらPDCAをまわしていきましょう。
業務改善のポイント
業務改善に万能のマニュアルは存在しませんが、押さえておくとスムーズに進めやすいポイントはあります。
常にQCDのバランスを念頭におく
業務改善の結果が部分最適になってしまうことがあります。ある業務の改善が成功したようにみえて全体の生産性が悪くなっている、または、他の場所の負担に置き換えただけのようなケースです。
これを防ぐため、業務改善の計画段階から、企業活動全体でQCDのバランスを常に考えておく必要があります。
- Quality(品質):業務品質は十分か。さらに向上できないか。
- Cost(コスト):人数や工数は適切か。削減できなる部分はないか。
- Delivery(納期):遅れはないか。もっとスピードを上げられないか。
ポイントは、業務単位や部署単位ではなく、市場や顧客との関係まで含めた企業活動すべてでQCDの最適化が図れているかを、常にチェックすることです。
自分ごと化できるまで目的を共有する
業務改善には多くの部署やメンバーが関わるため、なかには仕事を取り上げられることを恐れたり、他部署から仕事を押しつけられると感じたりする場合があります。円滑に進めるためには、関係者全員に業務改善の目的と実行過程を根気よく説明し続ける必要があります。
その際には、
- 改善計画の内容や根拠を関係者全員に共有する
- 部分最適化ではないというメッセージを繰り返し出す
- トップダウンや部署の力関係で強引に進めない
ことが重要です。
業務改善プロジェクト中は多くの場合、現在の業務はそのまま、追加で作業を行います。将来の労働環境の改善や、生産性の向上に対する納得感がないままでは、うまく協力を得られません。また、不満を抱えたまま改善策を実行しても、改善後のやり方が定着せず形骸化する恐れもあります。
トップから業務改善の目的や完遂の意思を繰り返し伝え、かつ実行時は関係者一人ひとりのマインドにも気を配りながら、丁寧にステップを進めましょう。
業務改善の事例紹介
当社が関わった業務改善の成功事例を紹介します。
RPAにより営業と工場間で在庫をリアルタイム共有
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は、PC上で行うさまざまな作業をソフトウエアロボットに記録し、処理を自動化するツールです。総合電機メーカーE社による、営業現場と工場をつなぐ在庫管理システムのリアルタイム共有事例を紹介します。
E社データ
業種 |
電子機器製造 |
規模 |
500人〜1000人(事業部) |
事例 |
RPA導入による在庫管理システムの自動化、リアルタイム化 |
総合電機メーカーのE社は、設計、開発、製造、営業まですべての工程を自社内で組織する「垂直統合型」の生産体制を取っています。工場には最先端の技術を導入し、高品質でスピーディーな供給を可能とする生産システムが実現していました。
ところが、この工場の生産状況が営業部側に共有されておらず、提案のたびに在庫を工場へ問い合わせるという運用になっていました。工場の生産管理システムと営業側で使っている在庫管理システムが違うためです。この状況を改善し、営業がリアルタイムで工場の在庫を確認できる仕組みを構築すること。これが業務改善プロジェクトの目標として設定されました。
同社ではこの課題解決にRPAを導入、工場の生産管理システムから情報を取得して、営業部の在庫管理システムに連動させる仕組みを作りました。RPAは、システム自体の改修に比べ、圧倒的に低コストで導入できます。また、自動化をノンプログラミングで行えるため、非IT部門でも扱いやすいというメリットもあります。
営業が常に工場の状況を把握できるようになったことで、営業効率が大幅にアップし、工場側も問い合わせ対応にかかるコストを削減できました。
複数の改善策で住宅設備プラン作成業務を効率化
パナソニックリビング近畿株式会社様による住宅設備プラン作成業務の効率化を紹介します。住宅設備プラン作成とは、図面や仕様書をみて要望にマッチした内装材や建材などを選び、見積金額を算出していく業務です。基本的に案件ごとのカスタムメイドのため、標準化が非常に難しくなります。また、一定の専門スキルが要求されるため、担当ごとにやり方が分かれ属人化しやすい業務でもあります。
パナソニックリビング近畿株式会社データ
業種 |
住宅設備販売・施工 |
規模 |
売上210憶/従業員300名 |
事例 |
業務範囲・業務フロー定義による業務改善支援 |
同社でプラン作成業務を行う「プランセンター」の業務改善は、改善策を複数の段階に分けて実施されました。
まず、支店ごとに行っていたプラン作成業務を本部に集約し、ノウハウを持ったベテランを中心に人を集めました。続いてメンバーの業務フローを徹底的に分解して可視化。業務整理を行い、課題を明確にしました。
そこからは課題ごとに改善策の実行です。コア業務が明らかになったことにより、必要のない業務は廃止され、ノンコア業務はアウトソーシングされました。さらにコア業務はマニュアルを作成して標準化、今後は一部システム化も検討されています。
同社では、プランセンターの業務改善で得られた知見を営業部門などにも適用して改善を行っています。カスタム性が高い専門分野でも業務改善は可能で、さらに社内での横展開にも活用できるという事例です。
業務改善に終わりはない
技術の進歩や社会環境の変化により、「何が効率的か」は
常に変わっていきます。ゆえに業務改善は一度で終わるものではなく、企業が活動する限り続いていくものです。
業務改善を一過性のプロジェクトで終わらせないためには、成果の振り返りが重要です。改善した業務に当初のゴール設定どおりの効果が出ているのかを検証し、次のアクションへつなげます。
理想は、業務改善そのものが普段の業務に組み込まれている状態です。そのためには、業務改善のスキルを持った人材の育成、評価へ反映する仕組みなどが必要になります。ここまでのステップで、そのための土台はできあがっています。まずは業務の可視化から始め、文化や風土として社内に定着するまで改善活動を続けていきましょう。