チェックインとフィードバックから始める職場のチームづくりー 第1回目:チェックインー
職場のチームワークを高める方法は多々ありますが、比較的簡単に始められて大きな効果が期待できるものが、チェックインとフィードバックです。チェックインとフィードバックについて、2回にわたってご紹介します。
第1回目はチェックインについてご説明します。チェックインは、会議やミーティング、研修など、人が集まって話しあったり課題に取り組んだりするときに、冒頭で参加者全員がひとこと発言することです。そんなことが、なぜチームづくりにつながるのでしょうか?
チームづくりにおけるチェックインとは
英語版のwikipediaでは、チェックインについて、「人々がオフィス、ホテル、空港、病院、港、またはイベントに到着したことを発表するプロセス」と書かれています。つまり、「ここにいますよ」と自分自身の存在を相手に知らせることが、チェックインだということです。
皆さんの職場では、どんな会議がおこなわれていますか?皆が不安なく参加し、発言できているでしょうか?誰もがメンバーとして受け入れられたと感じているでしょうか。一人ひとりが心理的安全性を感じて存在できる場になっているでしょうか?
人が集まると、一人ひとりの心の中にさまざまな不安が生じます。ふだんから一緒に仕事をしている仲間であっても、会議室などに集まるととたんに緊張感が高まってくることがあります。「この場で本音を言っていいのだろうか?」「私は皆に受け入れてもらえるだろうか?」などと、不安な気持ちを感じてしまうと、なかなか発言しにくくなるものです。
チェックインは、どんなことでも躊躇なく発言できるようにするための準備です。全員が「今の気持ち」や「最近うれしかったこと(グッド&ニューと言います)」、「今日の期待や気がかり」などを話します。話す内容は議題と無関係でもかまいませんが、自分の感情がすこしでも表現されることが大切です。休日明けだったら、「休日はどう過ごした」などを1人1分程度で話してもらうのもいいでしょう。
一人が話している間は、他のメンバーは耳を傾けます。発言の途中で口をはさんだり、質問したりしてはいけません。からかったりするのはもってのほかです。こうするなかで、「私はここにいてもいい」「私が発言しても皆聞いてくれる」など、当初持っていた不安が消えて、心理的に安全な場づくりが促されます。
チェックインは成果の上がるチームづくりのきっかけ
チェックインによって、話しあいの場にこんな効果が期待できます。
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相手の意図や期待、状況を知ることができる
皆がどう思っているのか、どんな期待をもっているのかは、聞いてみないとわからないものです。また多少体調が悪くても、隠していると気がつかないものです。とくに権威のある人が体調が悪くてつらそうにしていると、部下たちは何らかのメッセージを読み取ろうとしがちです。はじめに一人ひとりの心身の状態を共有することが大切です。 -
感情レベルの話を受けいれる基礎をつくる
かつては、「職場で感情的な話をしてはいけない」という考え方がありました。最近ではずいぶん変わってきたものの、まだ強く残っている職場もあるようです。しかし、ほとんどの物事は人の感情に少なからず影響されるものです。納得しているのかどうか。どれだけ納得しているのか。感情的なことも率直に話してもらうことは、業務を遂行するためにとても大切なことです。 -
発言することで緊張をほぐす
新人や若手社員などは緊張して、まったく発言しなかったりします。今はできるだけ多様な視点で物事を見ることが求められています。「私も話していいんだ」と実感し、多様な意見を言ってもらえるようにすることが大切です。 -
話しあいの場に入る準備ができる
直前にトラブルに直面したりすると、そのことで頭がいっぱいになって、話しあいに集中できません。「さっきこんなことがあって...」と、自分の気持ちを伝えることで、少しでも気分が楽になります。こんなことが、話しあいの場に集中するきっかけになります。
私がある客先で、経営会議のファシリテーターを任されたときのことをご紹介します。
いつも機嫌の良い部長さんが、とても難しそうな表情で目をかたく閉じていました。その日の会議で難しい議題があることは、全員知っていました。皆、部長をチラッと見て居心地悪そうにしています。私も心のなかで、「今日の会議は荒れそうだなあ」と思いながら、チェックインを始めました。すると、その部長さんが「昨晩、飲みすぎてしんどいから早く終わってほしい」と言われたのです。全員の緊張感がどっとほぐれて、それからは話しあいに集中できました。チェックインの効果を実感した体験です。
チェックインを導入するための4つの要件
職場にチェックインを導入するためには、次の4つを大切にしてください。
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チェックインの有効性を共有する
いきなり「チェックインしよう!」と言いださないことです。チェックインの必要性を話して、皆の了解を得たうえで始めます。「なんだ、この無駄な時間は」と思われたら、拒否感が強くなるばかりです。 -
時間を明確にする
はじめに、どれくらいの時間を使うのかを明確にします。「全体で5分程度、1人30秒以内で全員発言してください」など言っておくと、時間を有効に活用できるでしょう。 -
ファシリテーターが範を示す
慣れないうちはなかなか話しづらいものです。初めの頃は、リーダーやファシリテーターから言うのがいいでしょう。「こんな話題でいいんだ」「これくらいの長さでいいんだ」と思ってもらえると、言いやすくなるはずです。 -
規範をつくる
会議でも短時間のミーティングでも、人が集まる場では常にチェックインから始めることを習慣づけることが大切です。時間が無いときは「今のあなたの心身の状態は何%ですか」と問いかけ、数字だけ答えてもらうだけでもいいです。各メンバーが発言し、各人の状態を皆が共有することが大切です。
チェックインを続けていくと、おたがいの人となりもわかってくるので、メンバー同士の関係性が深まってきます。これが、チームづくりを促し、知恵の集まる話しあいの場をつくることにつながってくるのです。
リモートワークにこそチェックインが必要
チェックインは以前から、チームづくりの有効なきっかけになるものでした。何日間ものファシリテーション研修をおこなった後で、「チェックインがいちばん役に立ちました」と言われることがよくあります。「もっと役立つことをたくさん伝えたのに...」と思うものの、やはりチェックインが導入しやすく、効果の出やすいものなのでしょう。
コロナ禍でリモートワークがメインになった職場も多いことだと思います。じつは、チェックインはリモートワークにおいてこそ、重要な効果を発揮できるのです。対面だと、会議の前後にちょっとした雑談をすることがあります。相手の意気込みや期待度が感じられたり、決定事項への満足度がなんとなくわかったりすることがあります。また会議で言えなかったことなども、雑談のなかで共有されたりすることでしょう。
オンライン会議では、議題についてだけしか話さず、雑談をする余裕がありません。そのため、相手の体調も期待も、決定事項への納得度もわからないことが多いのです。そんなことが、だんだんとメンバーの孤立を深め、おたがいの心理的な距離を引き離していくことになりかねません。時間的に厳しくても、オンライン会議にこそチェックインの時間が必要なのです。チェックインを続けていくことで、オンライン会議の雰囲気はかならず変化します。
コロナ禍を体験するなか、多くの職場ではチームづくりについての考え方が大きく変化したのではないでしょうか。リモートワークが当たり前になっている今、チームづくりはこれまで以上に時間とコストをかけないとできにくくなっています。だからこそ、まずはチェックインから導入することが大切です。チェックインを常におこなえることが、チームづくりの基盤となるのです。