チェックインとフィードバックから始める職場のチームづくりー 第2回目:フィードバックー
職場のチームワークを高める方法は多々ありますが、比較的簡単に始められて大きな効果が期待できるものが、チェックインとフィードバックです。前回はチェックインを取り上げました。今回はフィードバックについてご説明します。
フィードバックは、評価やダメ出しの意味で使われることが多いようですが、本来の意味は、相手の言動がまわりにどんな影響を与えているのかを伝えることです。フィードバックを伝えあうことは、おたがいの成長を支援し、そして「関係の質」が高まることでチームづくりが促進されていきます。
フィードバックとは何か
フィードバックは元々、制御工学で使われていた言葉です。たとえば、空調機械はセンサーから返された温度などのデータを目標値と比較して、出力を変化させたり、そのままの稼働を続けたりします。データを返すことをフィードバックと言います。
チームづくりにおけるフィードバックは、この仕組みを適用したものです。ですから、フィードバックは「データを提供すること」と考えるといいでしょう。この人の言動は、自分やチームの人たちにどんな影響を与えているのか。自分が見えたことや感じたことを、率直に伝えてみるのです。それによって相手は、自分の言動の影響力を知ることができます。必要であれば、自分で判断して発言や行動を修正するし、「今のままでいい」と判断したら同じ行動を続けます。
そもそも私たちは、自分の言動の影響力を知ることは困難です。誰かに「あなたの今の言葉は...と感じられた」と教えてもらわなくては、わからないものです。だからこそ、たがいにフィードバックしあうことが必要なのです。フィードバックをしたりもらったりすることで、一人ひとりが適切な関わり方を見出していきます。それはチームづくりの基礎となります。
ポジティブ・フィードバックとネガティブ・フィードバック
フィードバックには2種類があります。チームワークに良い影響を与えていると思われるもの(ポジティブ・フィードバック)と、悪い影響が懸念されるもの(ネガティブ・フィードバック)です。いずれも、相手の言動(客観的な事実)と、それによる影響(感情を含む)をセットにして伝えると効果的です。
1)ポジティブ・フィードバックの例
(事実)あなたが皆の発言の要旨を板書してくれたから、
(影響)私はディスカッションが深まっていく過程を理解することができました。
2)ネガティブ・フィードバックの例
(事実)まだ手が挙がっているのに、あなたは「時間だから」とミーティングを終えたから、
(影響)私はあなたの行動に戸惑いを感じました。
何気ない発言が、他者に嫌な思いをさせることもあります。「こんな発言をしたよね」「それによってこんな気持ちがしたんだ」と伝えることで、相手は他者との関わり方を学んでいくのです。
フィードバックをめぐる誤解
フィードバックとは、他者にデータを提供することだと書きました。データには評価も助言もありません。もしフィードバックに評価が含められると、相手はフィードバックを怖がるようになるでしょう。防御的に反応して、上司や同僚からのフィードバックを拒むようにもなりかねません。
今、フィードバックについて、多くの本やネットの記事が書かれていますが、その多くは、フィードバックの本質よりも、「いかにうまく伝えるか」のテクニックが書かれているようです。評価面談や360度フィードバックなど、「フィードバック」と呼ばれているものの多くに「評価」の要素が含まれています。批判や評価、助言や叱責などと、フィードバックを分けて考えることが大切です。
フィードバックは「褒める」こととも区別してください。部下を褒めてばかりいると、部下は褒められることを目的に行動するようになるかもしれません。それは、部下の自主的なチャレンジや自律的な成長を阻むことにもなるでしょう。フィードバックで相手にデータを提供することで、相手は自分でこれからの行動を考える癖をつけることができるのです。
フィードバックするためには、部下をよく観察することも必要です。部下は上司の反応を気にするものです。上司が自分のことをよく見ていることがわかると、部下は安心して仕事に取り組むことができるでしょう。フィードバックを習慣化することが大事だと思います。
また、フィードバックは、上司から部下にだけおこなうものではありません。部下から上司へ、同僚から同僚へと伝えられるものです。「今の私の進行はどうだった?」とフィードバックをもらいに行くことで、自分の行動を省みることができます。相互にフィードバックが交わされるなかで、チームの信頼関係は高まっていきます。
たくさんのポジティブ・フィードバックを伝える
とはいうものの、フィードバックされるときはちょっとドキドキするものです。できるだけ、相手が受け入れやすいように伝えることが大切です。言葉づかいや姿勢にも気をつかいながら、相手を威圧しないようにします。「私」を主語にすることも大切です。「他の人がどう感じたのかはわかりません。少なくとも私は...」と限定すると、相手も受け取りやすいのです。
ポジティブ・フィードバックと違って、ネガティブ・フィードバックは受け取りにくく、想定以上に衝撃を与える場合もあります。弱点や欠点に焦点を当てることは、相手の成長を阻害することにつながります。ある調査によると、業績の高いチームは、ポジティブとネガティブの割合が6:1だそうです。ネガティブ・フィードバックを伝える際には、せめて3つ以上のポジティブ・フィードバックを伝えた方がいいのです。
多くの人は、他者の「できていないところ」や「不足していること」は目につきやすいですが、「できているところ」や「良い影響を与えているところ」にも、もっと目を向けた方がいいでしょう。できるだけ部下の行動をよく見て、たくさんのポジティブ・フィードバックをすることが大切なのです。
おたがいを気遣いあえる職場づくり
いわゆる「Z世代」の若者たちは、生まれた時からソーシャル・ネットワークがあった世代です。なので、無意識のうちに承認を求めていると言われます。彼らにはこまめにポジティブ・フィードバックを伝えることが求められるのです。
「あなたが作ってくれた資料がわかりやすかったから、説得することができたよ」
「先日教えてくれた情報を会議でシェアしたら、部長が興味津々で聞いていたよ」
ほんの小さなことでも、嬉しかったことや役に立ったと思ったことをフィードバックすると、彼らの自信を高めることになります。フィードバックを続けることで仕事のしかたを覚え、さらにパフォーマンスを上げる促しとなるでしょう。
フィードバックは、相手の存在を承認することでもあります。それは、相手に関心を示し、気にかけることです。相手を1人の人間として大切にすること、笑顔で挨拶をすること、相手の様子を見て「疲れているように見えるけど大丈夫?」などの声掛けを欠かさないようにすることです。フィードバックがない職場は、無関心がはびこる職場です。気遣いのない職場で、人やチームの成長を期待することは難しいでしょう。
フィードバックを試してみましょう。まずは、ポジティブ・フィードバックから始めるのがいいでしょう。最初はチャットで伝えてもいいと思います。ただし、ネガティブ・フィードバックは、オンラインではなく対面で伝えてください。相手の反応も見ながら伝えないと、誤解されやすいものです。