業務改善がうまくいかない理由と失敗しない進め方

業務改善がうまくいかない理由と失敗しない進め方

業務改善の成果が出ない、あるいはプロジェクト自体がうまく進まないといった事態は様々な企業で起こります。細かな状況は企業によって変わりますが、原因や陥りがちなパターンにはいくつかの共通点があり、対処が可能です。

本記事では業務改善がうまくいかない理由と、失敗しない業務改善の進め方を解説します。

目次[非表示]

  1. 1.業務改善がうまくいかない理由
    1. 1.1.目標(ゴール)が設定されていない
    2. 1.2.報酬(インセンティブ)が設定されていない
    3. 1.3.周知されていない
  2. 2.失敗しない業務改善の進め方
    1. 2.1.ヒアリングの際は組織の壁を取り払う
    2. 2.2.目標設定にはQCDを取り入れる
    3. 2.3.改善範囲は経営層と現場の視点の違いを意識する
    4. 2.4.改善策には検討の順番がある
    5. 2.5.コミュニケーションを密にとる
  3. 3.業務改善は企業文化として定着していく

業務改善がうまくいかない理由

業務改善がうまくいかない理由

業務改善は実務に加えて改善のための作業が加わるため、現場にもマネジメント層にも大きな負担がかかります。さらに組織間の調整も必要で、周囲からの反発やトラブルも付きものです。これらの負荷に耐えかねて、改善活動が頓挫してしまうことは少なくありません。そのため業務改善を前に進めるためには、抵抗があっても突破していく力、モチベーションが不可欠です。どれほど優れた施策であっても、「達成するといいことがある」というモチベーション設計ができていなければ、成果を得ることは難しくなります。

以下、業務改善がうまくいかない理由として、「目標」「報酬」「周知」の3要因に分けて説明します。

目標(ゴール)が設定されていない

業務改善が進まない理由の一つとして、「適切な目標(ゴール)が設定されていない」ことが上げられます。

ここでいう目標とは、「システム導入で問い合わせ対応時間を20%短縮」のような業務目標ではなく、業務改善を進めることでどのような企業を目指すのかを明確にするためのもの、つまり会社のビジョンです。

経営陣や業務改善の担当責任者が明確な目標を掲げなければ、現場は業務改善を目の前のトラブル解消としか認識できません。これは部分最適に陥りやすく、「該当箇所の改善はできたがほかの仕事が増えた」などの問題を引き起こします。また、社内中をひっかきまわして仕事を付け替えただけで、実際の業務総量は変わっていないという状況も起こり得ます。

業務改善目標の設定には、事前に課題を明確にしておく必要があります。業務の棚卸し、可視化を経て課題の発見へとつなげ、業務改善の目標を設定していきます。業務の棚卸しで見つかった課題だけを見て、すぐに具体的な解決手段の検討に入るのは避けましょう。まずは全体を把握したうえでの目標設定です。

参考記事
業務改善の進め方と事例を紹介

報酬(インセンティブ)が設定されていない

業務改善の推進担当者を決めたが今ひとつ前に進める力が弱い、逆に担当者は積極的に働きかけるものの、現場からの協力が得られないなど、業務改善におけるこのような温度差はよく見られます。

これらの原因の多くは、「適切な報酬(インセンティブ)が設定されていない」ことにあります。担当者や現場、他部署の人間それぞれが、業務改善に取り組めば「もっとよくなる」と認識できるインセンティブが必要です。

業務改善の推進担当者の場合のインセンティブは、別途金銭の報酬やキャリアを用意するなどが考えられます。現場には、改善に取り組むことで「どれだけ仕事の負担が減るか」がインセンティブとなるでしょう。ここを明確に、かつ当事者がメリットと感じているかどうかをチェックしながら、何度も伝えることが大切です。

逆に現場から改善を働きかける際には、経営層にとってメリットのある提案を心がけます。実際にやることは同じでも、細かな業務の効率化をアピールするのではなく、全社売上拡大や利益構造の改善など、大きな経営課題の解決に沿った提案にすると協力を得やすくなります。

周知されていない

業務改善を進めるうちに、他部署から「担当の負担にならないように」などと言われ、改善活動が進まないケースが多くあります。これは業務改善が自部門のみの“部分最適”を目的としていると誤解されており、「みんなにとっていいこと」であると周知されていないために起こります。

業務改善は、会社の一部門を効率化する部分最適ではありません。このことを最初から、繰り返し、全員に伝えていく必要があります。「どこかの部署が勝手にやっている」という印象を与えないように注意を払い、最初から周りを巻き込んで、「みんなにとっていいこと」だという空気を醸成していきます。

また、改善活動を現場に丸投げしてしまうと、自部門だけで解決しようとする意思が働きがちです。このような状況では部分最適が目的となり、仕事の付け替えや作業担当の配置換えなど、変化の少ない手段が選ばれてしまいます。

業務改善を進めるには、トップや経営層、推進担当者たちが、業務改善の目的や得られるメリットなどについて十分に説明し、現場に浸透させることが非常に重要です。「みんなにいいこと」であると、繰り返しメッセージを発信し、丁寧に現場の声を聞きながら進めましょう。

失敗しない業務改善の進め方

失敗しない業務改善の進め方

業務改善の進め方と、先にご紹介した「業務改善がうまくいかない理由」のような失敗しやすいポイントについて解説します。

業務改善の進め方5ステップ

  • Step1:可視化
  • Step2:課題整理
  • Step3:ゴール設定
  • Step4:改善範囲明確化
  • Step5:改善実行

業務改善は上記のような手順で進めていきます。それぞれのステップで注意すべきポイントは次のとおりです。

ヒアリングの際は組織の壁を取り払う

業務の可視化は、主に現場へのヒアリングで行います。その際は、できるだけ利害関係がない人間を聞き役に、先入観なしでありのままを聞くのがポイントです。従業員にとって、直属の上司などにありのままの業務量や内容を話すのは気が引けるものです。人事部が担当する場合でも、人事評価の面談と同じように捉えてしまう人もいます。業務改善の意図や目的を共有し、上からの意見や否定は避けて話しやすい雰囲気作りに注力しましょう。

ここは業務改善ステップのなかでも難しく、かつすべての土台になる重要な部分です。可視化の際に現場の協力体制をしっかり作っておかないと、プロジェクト体制や予算を組む段になってから、押し付け合いや消極的な態度として表れます。ヒアリングは慎重に、時間をかけて行いましょう。

目標設定にはQCDを取り入れる

目標設定では、課題を改善することでどうなりたいのか、会社や組織としての在り方を明確にします。ここが曖昧だと、業務改善の優先順位や、プロジェクトの予算・人員など、施策の方向性がブレやすくなります。設定した目標次第で適切な改善策が取れるかどうかも決まるので、業務改善の結果を左右する重要なステップです。

目標設定に使えるフレームワークとしては「QCD」があります。

  • Quality(品質):業務品質は十分か。さらに向上できないか。
  • Cost(コスト):人数や工数は適切か。削減できる部分はないか。
  • Delivery(納期):遅れはないか。もっとスピードを上げられないか。

このQCDを満たす、またより高いレベルを目指すという視点で目標を考えることで、業務改善によって「どうなりたいか」という曖昧で定性的な目標も、明確な達成指標として設定しやすくなります。

改善の先にあるビジョンがないと、とりあえず業務の棚卸しで見つかった課題を解決しようと、安易なシステム導入や従業員のスキルアップ研修などの手段が取られがちです。結果として、使われない・定着しないまま改善活動が終わってしまうことになります。まずは大きな目標、目指す企業の姿を設定し、そのために何を改善するのかを決めていきましょう。

改善範囲は経営層と現場の視点の違いを意識する

設定した目標に向かって改善対象の業務やプロセスを絞り込み、範囲を明確にしていきます。その際、業務改善に取り組む経営層と、現場の社員との間には温度差があることに注意します。

経営層と現場では、認識している課題、改善へのモチベーションの拠り所が違います。経営層は売上拡大や利益構造の改革など、業務改善の目標とモチベーションが一致していることが多いですが、現場は目の前のトラブル解消や仕事がスムーズに進むことのほうに目が向きます。これはどちらが正しいというものではありませんが、実施する施策を前に進めるためには、双方の認識や視点をすり合わせておく必要があります。

ここを無視して、現場が納得しないまま業務フローの変更を行っても改善はうまくいきません。同じ目標に向かって双方が納得できるまで、コミュニケーションを密にとりながら改善計画を進めましょう。

改善策には検討の順番がある

業務改善に取り組む範囲が決まったら、次は具体的な手法の検討です。改善策を選択するための視点としては、以下のようなものがあります。

改善策の視点

  • 廃止:業務自体をやめる
  • 集約:タイミングや場所を集約する
  • 代替:作業手順や人を入れ替える
  • 移管:業務を切り出しアウトソーシングする
  • 標準化:業務のマニュアルを作成する
  • 簡略化:工数を減らす
  • 自動化:機械、システムを導入する

このなかでコストがかからず、すぐに改善効果が出るのは「廃止」です。どんな業務でも、改善策はまず「廃止」できないかを考えてから、別の手段を検討します。

その他の手段は業務内容によって検討順が変わりますが、自動化(システム化)の前には、必ず簡略化を考えます。現場では、今の業務やプロセスを残したまま効率化しようとする意識が働きやすく、ITツールを導入するにしても、現在の業務をそのままツールで代替しようとしがちです。これは無駄な作業を含んだまま自動化することになり、改善効果が十分に得られないばかりか、システムのカスタマイズなどに余計なコストがかかります。

業務改善における「移管(アウトソーシング)」はBPOと呼ばれますが、こちらに関しても、少なくとも集約や簡略化について十分に検討を尽くしたあとになります。

ただ、これらITツール提供企業やBPOサービス提供企業などは、業務効率化や改善プロジェクトの進め方にノウハウを持っているため、早い段階からコンサルティングを含めて依頼するのもひとつの手です。

コミュニケーションを密にとる

業務改善には、経営層・推進担当者(チーム)・現場の三者それぞれの視点があります。ひとつの目標に向かっていても、思惑はさまざまです。推進担当者は全員が気持ちよく働けるように改善を進めているつもりでも、現場では仕事を取り上げられることを恐れたり、他部署から仕事を押しつけられると感じたりしている場合もあります。また逆に、現場が実務に即して考えた改善提案が経営層に響かないといったこともよく起こります。

業務改善は全社で取り組むプロジェクトであるため、様々な要素から影響を受けます。現実には組織の力関係などもあり、現場間だけでの調整ではなかなか進みません。かといってトップダウンで強行しても、軋轢を生んで後に問題が生じます。円滑に進めるためには、関係者全員が業務改善の目的とそれぞれの視点を理解し、根気よくコミュニケーションを続ける必要があります。そのためにも、皆が納得できる「目標」と、みんなにとっていいことが起こるという「報酬」を設定し、それらを「周知」し続けることが重要です。

業務改善は企業文化として定着していく

業務改善は企業文化として定着していく

初めてプロジェクトと呼べる規模の業務改善を行う場合、想定外の作業の増加や社員間のトラブルなど、計画通りにいかないことも多く発生します。ですが、この記事で述べた目標・報酬の設定と周知を徹底することで、抵抗に負けず業務改善を推進する力は大きくなります。そして、「業務改善によっていいことがあった」という成功体験が一度でもあれば、社内で改善に対するアイデア出しや議論が活発になり、やがてそれは企業文化として定着していきます。避けられる失敗は事前に避け、最初の業務改善を成功させていきましょう。

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