人事部の業務改善 対象業務や進め方、ツール・改善手法を解説
人事評価や給与計算、また採用活動や研修にいたるまで、人事部の業務は多岐にわたります。事務作業や定型業務も多く、オペレーションに追われて本来の役割が果たせないケースも少なくありません。そのため、人事部の業務を効率化し、コア業務に集中するためのツールや仕組みが注目されています。
本記事では人事部の業務改善について、効率化できる業務の種類、手法やツール、具体的な進め方などを解説します。
目次[非表示]
- 1.業務改善の目的
- 2.人事部で改善できる業務の例
- 3.人事業務の改善方法
- 4.具体的な業務改善の進め方
- 5.人事業務を改善するツール
- 5.1.RPA(自動化)ツール
- 5.2.タレントマネジメントシステム(人事評価)
- 5.3.採用管理システム
- 5.4.ERP(統合基幹業務システム)
- 6.人事部の業務改善まとめ
業務改善の目的
人事部の業務改善では、給与計算や社会保険関連業務、人事考課などのオペレーション効率化に焦点が当たります。それ自体は間違いではなく、この記事でも詳述していきますが、その先にある業務改善の目的をはっきり意識しておく必要があります。
人事部の業務改善の目的は、効率化によってコア業務に集中できるようにすること。そして人事部のコア業務とは、オペレーションをこなすことではなく、経営目標の達成に向け人的資源を最大限活用する仕組みを作ることです。労務管理や人事管理はそのための手段です。オペレーションの効率化自体が目的(=ゴール)とならないよう注意しましょう。
人事部で改善できる業務の例
人事評価や採用活動、給与計算など、人事部の業務は多岐にわたります。経営戦略や業務の質によって、簡略化、システム化、アウトソーシングなど、最適な改善手法は変わります。
人材採用
優秀な人材の採用は企業の生命線であり、人事部の重要な仕事です。一方で、人手不足や採用チャネルの多様化により採用活動の負担は増え続け、求職者や内定者のフォローが十分にできていない状況も散見されます。
優れた人材を確保し、他社に流れないようにするためには、採用活動のさらなる業務改善が必要です。方法としては、選考プロセス自体の見直し、応募書類評価の標準化、採用ツールの利用、オンライン面接の導入などが考えられます。また、募集計画から内定まですべての採用活動を代行するBPOサービスの利用もひとつの方法です。
参考記事
→BPOとは?対象業務や導入のポイント、アウトソーシングとの違いを解説
就業管理
雇用形態の多様化やリモートワークの普及で、従業員の正確な就業管理(勤怠管理)が難しくなってきています。
タイムカードの打刻やExcelなどを利用した管理では、作業が繁雑でミスも多くなります。そのため、自社サーバー上で勤怠データを管理するオンプレミス型、さらには場所を限定しないクラウド型の就業管理システムへの移行が進んでいます。
これらの多くはパソコンやスマートフォンからアクセスでき、位置情報のほかカメラ認証や生体認証なども搭載しています。不正を防ぎつつ、従業員・管理者双方の負担を軽減できるツールとして活用できます。
人事評価
給与や昇格、また人材配置や今後の育成にも影響する人事評価業務。査定方法や運用手法の決定は、人事部の大切な役割です。しかし、従業員数に対して情報をまとめる人員が少なくなりやすく、効率化が求められています。
これら人事評価業務を効率化するためにできることとして、達成すべき目標の明確化や評価内容の標準化、オンラインシステムの導入による手作業の軽減などがあります。特に紙やExcelシートでの個人配布・回収を行っている場合はシステム化の恩恵が大きく、対象者・評価者ともに業務を改善できます。
給与計算
給与計算は定型作業の塊で、何らかのシステムを利用している企業が多い業務です。しかし、複数のシステム間の連携が取れていなかったり、業務全体の流れのなかに手作業があったりと、非効率な運用をしているケースが多くあります。
改善策としては、プロセス自体の見直しで不要な作業を廃止する、手作業やシステム連携部分にRPA(自動化)を導入する、システムを総合型に一新するなどが考えられます。また、業務自体をアウトソースするのも有効です。
人事業務の改善方法
具体的な人事部の業務改善手段としては、主に「ペーパーレス化」「システム導入」「アウトソーシング」が用いられます。
ペーパーレス化
人事部の仕事は各社員の情報を集めるところから始まることが多く、紙でのやりとりが発生しがちです。また、Excelなどでデータ化しても、受け渡しや人事システムに取り込む際の加工が必要になり、手間がかかります。どちらも非効率な作業が含まれており、かつミスが発生しやすい構造です。
改善には、最初からデジタルデータだけを扱う「ペーパーレス化」への移行と、できるだけシステムを一元化する方法が有効です。入力から集約・分析、アウトプットまでリアルタイムで一元管理できるため、紙に比べ余計な行程を大きく削減できます。どうしてもExcelなどを使う場合は、途中の工程にRPA(ツールによる自動化)を入れることで効率化が可能です。
いずれにせよ、「紙ベース」と「転記作業」が発生しないように業務を改善することが重要です。
システムの導入
人事業務の効率化にはITシステムの導入が有効です。現在ではAIなどを用いた人事システムも多く、HRテックとして活用が進んでいます。
システム化の際に抑えておきたいのが、データの活用方法についてです。目的が曖昧なままITツールを導入してもうまくいきません。システム化では、基本的にすべての人事情報をデータベース化することになりますが、集約したデータからどんな課題を発見し、解決策を導き出したいのかの視点を持つことが重要です。
逆にしっかり定まった目的のもとでシステム化ができれば、業務のムダがなくなり、生産性が大きく向上します。集約されたデータからの分析・アウトプットも容易になり、戦略的な人事業務を行えるようになります。
アウトソーシング
様々な部門のなかでも人事業務のアウトソースは進んでおり、いろいろなパターンで切り出すことができます。労務管理であれば、給与計算や勤怠管理、年末調整業務など、人事管理でも採用や研修などのアウトソーシングが利用されています。
また、業務単位ごとではなく仕事の流れ全体(プロセス)をアウトソースするBPOも多くのサービスが提供されています。BPOには業務改善の視点が入り、自社でできることをそのまま外部に置き換えるのではなく、業務課題の分析、業務プロセス全体の設計・見直しを行い、全体の効率化や品質の向上を目指します。
いずれもうまく活用できれば、コストの削減、さらに社員がコア業務へ集中できる環境構築に大きく貢献できます。
具体的な業務改善の進め方
人事部の業務改善は、以下の5ステップで進めます。
業務改善の進め方5ステップ
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まず業務を細かく洗い出す「可視化」を行い、課題を整理していきます。その後、課題の優先順付けと、課題を解決したあとのゴールを設定し、実際に改善する範囲を決めます。ここまでが改善策を実行する前段階で、「ステップ4」までとなります。
ステップ5では実際の改善策を実行します。改善を目指す業務によって手段は変わりますが、発想として以下のような視点で業務を見直します。
改善策の視点
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人事部は、多くの企業でITツールやアウトソーシングの利用が進んでおり、業務改善においてもそれらありきで考えてしまいがちです。
しかし、対象業務の課題理解が深まっていない状態で安易にツールなどに頼ると、非効率な作業が含まれたまま業務を代替してしまいます。少なくとも「廃止」や「簡略化」について十分な議論がなされたあとに、ツール導入やアウトソーシングの検討を始めることが重要です。
参考記事
→業務改善の進め方を詳しく解説
人事業務を改善するツール
大量の情報を扱う人事部の業務改善には、システム化が不可欠です。人事業務に特化したものや、他部門も含んだ統合基幹業務システムなど様々なツールがありますが、企業規模やかけられるコスト、必要な機能などによって最適なものは変わります。
ここでは導入しやすいツールから順に紹介します。
RPA(自動化)ツール
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は、PC上で行う事務作業をソフトウェアロボットに記録して自動化するツールです。自社システムやパッケージソフトに縛られず、異なるソフト間でも自由に作業を組み合わせることができます。
人事部では、従業員が個別に入力した情報を集約する業務が多く発生します。基幹システムは、これら入力から集約までを自動で行う機能を備えていますが、業務の一部に「個人ごとに作成したExcelファイルを人事部で集約する」といった作業が残る場合もあります。
RPAはこういった定型作業に適しており、一度設定してしまえば以後の処理は自動化され、大幅な効率化が図れます。また、ヒューマンエラーを防ぐことにもつながります。
タレントマネジメントシステム(人事評価)
タレントマネジメントシステムは、自社の人材の情報を集約し、評価や今後の育成に活用できるシステムです。勤怠や給与計算まで含む人事管理システムとは違い、人材配置や育成サポートなど、経営のなかでも特に「人事戦略」に特化した特徴を持っています。
目標達成などの業務評価だけでなく、本人の保有スキルや個性、キャリア志向なども一元管理できるのが特徴で、多くは親しみやすいインターフェイスを備えています。タレント(才能・スキル)情報の集約と分析ができるため、たとえば次期リーダー候補の選定や育成プランの作成などに、集約した豊富なデータを利用できます。
採用管理システム
採用管理システムは、採用活動に特化したツールです。求職者情報の一元管理のほか、媒体や転職エージェントごとの求人情報の管理、応募者とのやりとり、面接スケジュール調整などの機能を備えています。Zoomなどを利用したオンライン面接にも、多くのツールが対応しています。
採用活動のデータがシステムに蓄積されることで、媒体ごとの採用率や人材サービスの費用対効果などの分析がしやすくなり、課題の発見や数値目標の見直しにもつながります。
ERP(統合基幹業務システム)
ERP(エンタープライズ・リソース・プランニング)は、企業の経営資源を統合管理するマネジメント手法で、これらを一元管理するツールがERPパッケージと呼ばれるシステムです。
ERPパッケージは、財務会計や生産管理、物流や販売などの分野ごとに用いられる基幹システムを統合して管理するためのもので、人事業務も含まれます。従来、各部門で異なる基幹システムを利用する形態がよく見られましたが、これは例えば、個人の営業や販売実績のデータを人事管理システムに入れ直すなど、情報の受け渡しが発生します。この運用は非効率で、かつ人手がかかりミスも増えやすくなるため、ERPパッケージで企業活動におけるデータを一元管理するようになりました。
ERPパッケージは、うまく導入できれば業務改善が一気に進みますが、経営全般、また社員の働き方にも大きく影響するため、システム導入は大がかりなものになります。自社に合った機能の見極めや、導入後の教育プランなども十分に検討してから進めましょう。
人事部の業務改善まとめ
ITツールの利用や業務のアウトソーシングで、人事部の業務は大幅な改善が可能です。オペレーションに手を取られていた状況が変われば、人事戦略や社員の働き方を考える、人事部本来の業務を行う余裕が生まれます。また、社内のやりとりが多い人事業務の性質上、人事部の業務を効率化することは、社員全体の業務を効率化することにもつながります。
ツールや外部資源も利用しながら人事部の業務改善を進め、積極的に社内にフィードバックしていきましょう。