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目標共有のチームづくりとは?

人が集まると「集団」ができます。でもそれは「チーム」ではありません。何が違うのでしょう?

たとえば、たまたま同じ電車に乗り合わせた人たちは、ただの「集団」です。もし車内で急病人が出たとすると、まわりの人たちがその人のために動き出します。席を譲ったり、介抱したり、緊急通報をしたりしながら、「早く治療が受けられるように」という共通の目標に向けて、自発的に役割分担しながら協力しあいます。ほんの一時的ですが、「チーム」がつくられたのです。

しかし、このチームにマネジャーはいません。マネジャーがいなくてもチームができるとしたら、マネジャーはチームのなかで何をする人なのでしょう?

目次[非表示]

  1. 1.上司は指示命令ばかりしなければならないのか?
  2. 2.「マネジャーゲーム」で明らかになる目標共有の大切さ
  3. 3.チームの大切な目標を見失ってはいないか?
  4. 4.チームとは目標達成のために協働する人たち
  5. 5.常にチームの目標を明確にして、共有を促す 

上司は指示命令ばかりしなければならないのか?

上司は指示命令ばかりしなければならないのか?

私が昔、ランチをよく食べに行ったレストランでの体験をご紹介します。広い店内では3、4人のパートタイムの女性が手際よく、注文をとったり配膳をしたり、後片づけをしたりしていました。とても手慣れた動作で、大勢の客がいるにも関わらず、すぐにランチが運ばれてくるのです。しかし、たまに店のオーナーがやってくると、彼女たちの動作は戸惑いがちに乱れます。オーナーは突然の思いつきで、「ここ片付けて!」「あそこのテーブルに持っていって!」など、彼女たちに指示をするのです。おたがい息を合わせて、段取り良く仕事をこなしていた彼女たちは、自分の判断でやろうとしていたことを変更しなければならず、作業が滞りがちになります。そのあおりで、私の頼んだランチもなかなかテーブルに並べてくれません。

一般に、マネジャーは指示命令をしたがる傾向があるようです。管理者の義務であると思っているのでしょうか。部下が何をすればよいか迷っているときには、指示すればいいでしょう。ただ、部下たちが主体的に考え、行動しようとするときに上司だけの判断で指示命令をすることは部下のモチベーションを削ぎ、チームの効率を低下させることになりかねません。指示命令がなくても、皆が自発的に仕事に取り組み、協働していくチームが理想的ではないでしょうか。

「マネジャーゲーム」で明らかになる目標共有の大切さ

「マネジャーゲーム」で明らかになる目標共有の大切さ

マネジメント研修でよく使われるビジネスゲームのひとつに、「マネジャーゲーム」があります。マネジメントの要諦に気づくためのゲームです。まず、5〜6人でグループをつくります。一人が「マネジャー役」になり、他の4〜5名は「メンバー役」になります。各人に、ゲームの中での注意事項が記された指示書と、白紙のメモ用紙の束が渡されます。ゲーム中、会話は禁止され、おたがいの連絡はすべてメモ用紙を使っておこないます。このような条件のもとで制限時間内に、ある課題に取り組むのです。ただし、この課題はマネジャー役にのみ渡され、メンバー役は知りません。

ゲームが始まると、マネジャー役は課題達成の戦略を考え、指示を書いたメモをメンバー役に渡します。各メンバーはメモを受け取って、書かれているとおりに作業をこなし、報告をメモで返します。マネジャー役はたいへんです。4〜5人の部下とメモでコミュニケーションをとりながら、さらに次の対策を考えていくのです。一方、メンバー役は指示待ち状態で、やることがなく暇を持て余すこともあります。

要領の良いマネジャー役は、はじめにグループで課題を共有します。マネジャー役は課題が全員で共有されているかどうかを知りません。いずれにせよ、あらためて課題の共有を促すことで、グループ全体で課題に取り組んでいく規範がつくられます。このようなグループでは、マネジャー役だけが汗をかくのではなく、部下役たちも主体的に情報提供したり、より良い方法を提案してくれたりします。そして、皆の協力のもと、時間内に課題を解決することができるのです。

チームの大切な目標を見失ってはいないか?

チームの大切な目標を見失ってはいないか?

「マネジャーゲーム」のようなビジネスゲームは、課題そのものは非現実的なものですが、ゲームに取り組む過程で生じることは、現実にも起こり得ることです。ゲームの参加者たちはゲーム体験のふりかえりをすることで、チームにおける目標共有の大切さを再認識することになります。そして、自分はできているだろうかと、自分自身のマネジャー行動を点検する機会にもなります。

さて、このゲームではたまに、マネジャー役が課題を見失うこともあります。誰も課題を意識しないなか、自分たちで勝手に課題をつくってしまうのです。ゲームが終わった後で本来の課題に気づき、「はっ」とする人たちもいます。これと似たことは、私たちのふだんの働き方のなかにもあるかもしれません。

年度の変わり目に新たな目標が示されます。組織の目標とともに、チームごとの目標や数値目標も設けられることでしょう。マネジャーはそれをブレイクダウンして、メンバーごとの数値目標を設けます。しかし、日々のタスクをこなすなかで目標が見失われることもあります。さすがに数値目標はプレッシャーも大きく、忘れることはないかもしれません。ただ、その背後にある大事な目標が忘れられることはあるものです。たとえば、イノベーションだとか、新規事業の開発だとか、自律型人材の育成といった、数値であらわしにくい目標です。大切な目標を見失ったチームは、「マネジャーゲーム」で課題を見失ったグループに似ているようにも思えます。

チームとは目標達成のために協働する人たち

チームとは目標達成のために協働する人たち

あらためてチームとは何かを考えるために、チームに関する2つの考え方をご紹介します。

一つ目は、「GRPI(グリッピー)モデル」です。これは、MITで組織開発を研究していたリチャー ド・ベックハード教授が提唱したもので、チームビルディングの教科書では必ずと言っていいほど取り上げられる考え方です。このモデルは、チームづくりの基本要素として、①Goal(目標)、②Role(役割)、③Process(手順)、④Interaction(関係性)の4つが挙げられています。大事なものから番号をつけたもので、何よりもまず目標を全員で共有することが大切であるということです。

2番目以降に、目標達成のために必要な要素が挙げられています。まず「役割」です。目標達成に向けて、個々のメンバーの役割が明確に定義されていることです。次に、目標達成への「手順」が明確にされ、全体で共有されていることです。最後の「関係性」は、メンバー間のコミュニケーションを円滑にすることです。日頃から信頼関係を育み、問題が起こった場合は隠さずに指摘しあい、問題解決に向けて率直な話しあいができることが大切です。ここでは、お互いの発言が尊重され、否定されたり無視されたりすることのない、心理的安全性も大切になります。

もう一つは、マッキンゼーのコンサルタントだったジョン・R・カッツェンバックとダグラス・K・スミスによる定義です。彼らは著書『いかに「高業績チーム」をつくるか』の中で、チームについて、「共通の目的、達成すべき目標、そのためのアプローチを共有し、連帯責任を果たせる補完的なスキルを備えた少人数の集合体」と定義しています。つまり、共通の目標に向かって、全員が自分の役割に責任を持ち、支えあいながら協働していく集団がチームであると言えるでしょう。

常にチームの目標を明確にして、共有を促す 

常にチームの目標を明確にして、共有を促す

チームについて2つの考え方をご紹介しました。共通しているのは、目標の明確さと重要さです。 目標が明確だからこそ、チームの存在意義があるし、メンバーたちのベクトルを合わせることができます。たとえ、彼らの仕事の大部分が雑用のようなものであっても、一つ一つのタスクが大きな目標につながっていると実感できることで、モチベーションが維持されるのではないでしょうか。冒頭に示した電車内の「チーム」は、偶発的かつ一時的とはいえ、チームの要件を満たしました。目標が明確であるほど、そして、目標への自分の貢献度が明確であるほど、私たちは力を発揮するものです。

マネジャーの役割は、常にチームの目標の共有を促し、メンバーたちの自発的な行動を支えていくことではないでしょうか。チームの目標がメンバーにどれだけ明らかになっているかを、まずは点検してみることです。マネジャーだけが目標を意識していて、メンバーはおろそかにしているようでは、「マネジャーゲーム」のメンバー役のように、手持無沙汰になりかねません。何度も目標の共有を促してみることです。

また、目標は一人ひとりが自分勝手に解釈していることも考えられます。同じ文章を見ても、それをどう解釈するかは人によって異なるものです。しかし解釈が異なると行動も異なりますし、メンバー同士に葛藤も生じかねません。マネジャーは、メンバーが目標について思うことを自由に語れる場を設けた方がいいでしょう。そこでお互いの解釈の齟齬が明らかになったら、それは目標共有を深めるチャンスでもあります。

ベクトルを合わせたチームほど、底力の強いチームはないでしょう。マネジャーは指示命令をするよりも、チームの目標共有を意識的に心がけてみてください。それが、チームの力を発揮することになるとともに、マネジャーの時間的な余裕を増やすことにもつながることでしょう。



合同会社チーム経営 嶋田 至
合同会社チーム経営 嶋田 至
組織開発ファシリテーター。日立造船グループでITやインターネットに関するプ ロジェクト・マネジメントをおこなった後、同僚と起業しインターネットを活用 した事業開発に携わる。2008年、合同会社チーム経営(LLCチーム経営)を設 立、代表に就任。 いま、企業、医療・介護、行政、労働組合などさまざまな組織において、組織開 発のコンサルティング、ヨコ型のリーダーシップ養成、ファシリテーター育成、 対話型組織開発の支援など、「人が生き、成果があがる組織づくり(組織開 発)」を促進している。
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