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世代間ギャップを生かす組織づくり

ダイバーシティ(多様性)推進が多くの企業で進められ、目に見える変化も出てきたようです。女性の管理職登用、障害者の雇用や定年退職者の再雇用、それらを支える制度として、時短勤務や育児休暇取得の奨励など、働き方の多様性も浸透しつつあります。

しかし、つぶさに見ていくと、十分に多様性が生かされているとは言いがたい現状があります。今回取り上げてみたいことは、世代間のギャップです。Z世代と言われる今の若手社員に対しては、つきあい方の指南書もたくさん見られるものの、悩んでおられるマネジャーも多いことと思います。しかし、多様な世代の人たちが皆さんのまわりに集まっているとしたら、それは幸運なことです。世代間ギャップを生かす取り組みは、チームの協働を高めるとともに、マネジャー自身の成長を促すことにつながるかもしれません。

目次[非表示]

  1. 1.若い世代の考え方や行動を理解する
  2. 2.若手社員とはローコンテクストで関わる
  3. 3.当たり前のつきあいをしてみる
  4. 4.「無知の人」になって、組織にエネルギーを生み出す
  5. 5.若手に舞台を与えて輝かせてみる

若い世代の考え方や行動を理解する

若い世代の考え方や行動を理解する

これは、ある企業のマネジャーから聞いた話ですが、新たな仕事について「できるかどうか」を問われると「できません」と即答する若手社員が増えてきたそうです。「昔は難しいと思っても、『検討します』と答えたものなのになあ...」と愚痴をこぼしておられました。すぐに「NO」と言うのは若手社員からすると、できないことは無理せずに「できない」と言った方が、相手を待たせなくて良いと思っているからかもしれません。あるいは、できそうにない自分よりも他の人がやるほうが、効率が良いと考えるからかもしれません。しかし、マネジャーからすれば、「すこしは考えてほしい、責任感はないのだろうか」と、首をかしげたくなるのでしょう。

世代が異なると育った環境がずいぶん異なり、考え方や行動の違いに現れることも多いことでしょう。中高年になりつつあるマネジャーたちの世代は、年齢を重ねるにつれて事物への好奇心も低減傾向にあります。そのため、好奇心旺盛な若手に比べて、マネジャーの方々が社会の新たな流れについていくことは大変なことでしょう。最近、リバースメンタリングを導入する企業も増えてきたようです。これは若手社員が管理職のメンターとなって、最近のトレンドや新たな製品の使い方などをアドバイスする制度です。自らトレンドにキャッチアップすることが難しい中高年世代でも、リバースメンターがいると、技術やマーケットの動向を適切に把握しやすくなるのです。

若手社員とはローコンテクストで関わる

若手社員とはローコンテクストで関わる

『ダイバーシティ・マネジメント大全(西村直哉、クロスメディアパブリッシング)』という本には、様々な属性の社員との関わり方が解説されています。この本によると、若手社員と関わるときに大事なことは、ローコンテクストで接することだそうです。つまり、「言わなくてもわかるだろう」ではなく、「明確に説明すること」が大切なのです。コミュニケーションの前提となる価値観が異なっているのですから、明確に言わなければ誤解も生じかねません。若手社員への対応のポイントとして、次の5点があげられています。

  1. 仕事の目的とすすめ方、ゴールイメージを明確に伝えて指示する
  2. 共感優位に働きかけ、「一緒に仕事をしていこう」という想いを伝える
  3. 根性論を排除して、今の努力が将来につながることを論理的に説明する
  4. 成果は認め、叱るときは説明する
  5. 少しずつ「負荷」をかけ、将来の困難を克服する力を養う

できるだけ丁寧に、相手と目線を合わせながら関わることが求められるようですが、皆さんはどう思われたでしょう?「面倒だな」と思った方もいらっしゃるかもしれません。以前なら言わなくてもわかりあえたし、同じ方向を向いて頑張ることができました。でも今は、労働人口が急激に減少していく時代です。ますます多様性は広がっていくのですから、多様性を成果に生かせるように自分自身の考え方や行動を変化させていくことが求められます。

「マネジャーは多忙なのに、そんなことに労力を割く余裕がない」とお考えかもしれません。しかし、視点を変えてみることも大切だと思います。たとえば今、マネジャーとして行っている業務は、本当に必要なものでしょうか?前から続けているから止められないこともあるかもしれません。ゼロベースで考え直して、無くても大丈夫なら止めてみる勇気も必要だと思います。マネジャーの本来の仕事は、人・モノ・金・情報といったリソースを適切に活用して、仕事の成果をあげることです。部下の成長を支えてチームの協働を促すことは、もっとも大切にすべきことではないでしょうか。

当たり前のつきあいをしてみる

当たり前のつきあいをしてみる

若手社員との関わり方については、人と人との「あたり前のつきあい方」も大切にしたいものです。たとえば、挨拶です。若手からの挨拶を待つよりも、自ら挨拶することを心がけてみてもいいでしょう。年齢が上だからと言って威張らないことも大事です。自分の方が経験が長くて役職も上だという自負があると、知らず知らず相手を見下す態度が見られるものです。そんな態度が、若手との間の溝を、さらに広げることにもなりかねません。 

チームワークは、ふだんの関係性に影響されるものです。日頃、挨拶や率直な会話などでお互いの関係性が深まっていると、支えあったり補いあったりしやすいことでしょう。そのために、マネジャーは積極的に部下たちとコミュニケーションをとってみたらどうでしょう。進捗確認や苦言だけではなく、自分の知らないことを教えてもらうのです。「今どんなことに関心があるの?」と声をかけて、聞いたこともない答えが返ってきたら、先輩に教えを乞うように解説してもらいましょう。 

ダイバーシティはしばしば、「エクィティ(公正)」や「インクルージョン(包摂)」とセットで語られます。多様な人たちが集まるだけでなく、お互いの間に「橋」を架け、お互いを尊重しあいながら、知恵や力を集めて協働のチームをつくることが大切です。 

「無知の人」になって、組織にエネルギーを生み出す

「無知の人」になって、組織にエネルギーを生み出す

アメリカの有名な女性向けアパレル企業の創業者兼デザイナーのアイリーン・フィッシャー氏は、自らを「無知の人」と呼んでいたそうです。彼女は裁縫のしかたも、会社の経営もよく知らなかったので、「わからないから教えてほしい」と社員たちに聞いてまわったそうです。「知らないから、真剣に耳を傾けます。するとみんなが力を貸そうとしてくれます。教えてあげたいと、みな思うのです。」

彼女が言うとおり、教えてもらうことで社員たちが動機づけられました。そして、誰もが安心して自分の考えを実践できる組織文化が作られていきました。

リーダーというと、自信に満ち、解決策を明確に把握し、力強く引っ張っていくイメージがあります。でも彼女は、弱さと謙虚さを体現したリーダーです。だからこそ、全員が「助けなければ」といった思いに駆られ、主体的に関わろうとするのかもしれません。しかも彼女は、「全員がリーダー」であるべきだと考えていたようです。だから一人ひとりに問いかけながら、彼らの潜在能力を自然と引き出し、組織にエネルギーを生み出していったのだと思います。

若手に舞台を与えて輝かせてみる

若手に舞台を与えて輝かせてみる

潜在力を引き出すには、実践の場を与えることが不可欠です。まだ仕事の内容を理解でいていない間は、適切に指導をする必要がありますが、ある程度理解が進んできたら仕事を任せてみるのがいいでしょう。マネジャー自身がかつて行なったやり方は参考に伝えるだけで、若手社員の創意工夫を尊重してみるのがいいと思います。はじめは失敗だらけかもしれませんが、小さな失敗は彼らの成長につながるはずです。できるだけ、たくさんの失敗をさせるのがいいでしょう。マネジャーは彼らの失敗を叱るよりもフォローすることを大事にしてください。そして、彼ら自身の持ち味を仕事で生かせるように支えて、一人ひとりが輝くように見守っていただきたいと思います。

多様であることは、同じ世代や属性の人だけでは考えつかないアイデアを生み出す可能性を大きくします。それは、マネジャー自身をさらに成長させる踏み台にもなるでしょう。ぜひ、世代間のギャップを組織の成果に生かすように、なによりも自分自身の充実感を高めるために取り組んでいただきたいものです。

以上

合同会社チーム経営 嶋田 至
合同会社チーム経営 嶋田 至
組織開発ファシリテーター。日立造船グループでITやインターネットに関するプ ロジェクト・マネジメントをおこなった後、同僚と起業しインターネットを活用 した事業開発に携わる。2008年、合同会社チーム経営(LLCチーム経営)を設 立、代表に就任。 いま、企業、医療・介護、行政、労働組合などさまざまな組織において、組織開 発のコンサルティング、ヨコ型のリーダーシップ養成、ファシリテーター育成、 対話型組織開発の支援など、「人が生き、成果があがる組織づくり(組織開 発)」を促進している。
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