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ダイバーシティ経営とは?基本概念やメリット、推進のポイントまで解説

組織に多様な人材を受け入れ、それぞれの特性や能力を活かすことで企業価値を高める「ダ イバーシティ経営」に取り組む企業が増えています。

これには、労働人口の減少や働き手の価値観の変化による人材不足、多様な消費者による市 場の細分化など、同質性人材をそろえる経営スタイルでの事業拡大が難しくなっている現 状が背景にあります。社会構造の変化に対応するため、組織内にバックグラウンドが異なる 多様な人材を抱えることを前提とした、新たな人事制度や戦略が求められているのです。

本記事では、多様性を活かして価値創造を目指すダイバーシティ経営について、その基本概 念やメリット、推進のポイントなどを解説します。

目次[非表示]

  1. 1.ダイバーシティ経営とは
  2. 2.ダイバーシティが必要とされる背景
    1. 2.1.人口構造と働き手の価値観の変化
    2. 2.2.グローバル化と技術革新による予測可能性の低下
    3. 2.3.顧客ニーズの多様化と消費行動の変化
  3. 3.ダイバーシティ経営のメリット
    1. 3.1.課題解決能力の向上とイノベーションの創出
    2. 3.2.人材確保と定着率の向上
    3. 3.3.企業としての信頼性向上
  4. 4.ダイバーシティ経営推進の重要なポイント
    1. 4.1.経営戦略としての明確な位置づけ
    2. 4.2.人事制度の変更や働き方改革
    3. 4.3.管理職のマネジメント改革
    4. 4.4.職場の心理的安全性確保
    5. 4.5.従業員の「自律」と多様性理解
  5. 5.即効性はなくとも将来を見据えた取り組みを

ダイバーシティ経営とは

ダイバーシティ経営とは

ビジネスにおける「人材」には、性別・年齢・国籍・人種などの目に見える表層的属性と、 スキル・性格・価値観などの外からは見えにくい深層的属性があります。これらの異なる属 性を「違い」があるまま受け入れ、個々の能力の発揮を支援することで、その多様性(diversity) を企業価値創造につなげていこうとする経営がダイバーシティ経営です。

経済産業省では、「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供すること で、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義しています。

また、ダイバーシティと同時に用いられることの多い「インクルージョン」は、単に多様な 人材が存在するという段階を超え、組織のメンバーが互いに迎合や同化することなく「包摂」 されている状態を指します。多様な人材が互いに尊重し合い活躍できる組織を目指すダイ バーシティ経営において、インクルージョンは重要な概念であり、「ダイバーシティ&イン クルージョン(D&I)」として取り組む企業も多くあります。

ダイバーシティが必要とされる背景

ダイバーシティが必要とされる背景

ダイバーシティは、国籍や人種など働く人の属性が多様なアメリカを中心に広がってきた 概念です。海外では1990 年代から経営に取り入れる企業が存在していましたが、日本で注 目されるようになったのは2000 年代に入ってからで、2010 年代になると経営戦略として 明確に打ち出す企業が急増しました。

背景にある要因として、「働き手」「外部環境」「顧客ニーズ」がそれぞれ大きく変化したこ とが挙げられます。

人口構造と働き手の価値観の変化

従来の企業がメインの働き手として想定してきた「会社にフルコミットできる人材」は、少 子高齢化によりそもそもの数が減少しています。また、昇進昇格などの報酬を軸として競争 に駆り立てる、いわゆる「出世レース」を志向しない層も増え、これらを前提とした長時間 労働や配置転換(転勤制度)などが受け入れられづらくなりました。さらに近年では、コロ ナ禍におけるテレワークの普及が労働者の価値観の変化に拍車をかけており、従来の人材 像を想定して作られた人事制度や経営体制のままでは働き手の確保は困難です。

このような要因から、多様な就業ニーズを持つ人材を活用できる経営体制への転換が急務 となり、ダイバーシティ経営が注目されています。

グローバル化と技術革新による予測可能性の低下

グローバル化によって海外市場でのビジネスチャンスは増えましたが、同時に競合する企 業も世界規模になりました。世界経済のなかで勝ち抜くためには、異なる言語や文化、価値 観、法律要件などを理解できるグローバルな視点を持つ人材が不可欠です。

また、デジタル技術の進歩などにより外部環境の変化スピードが速くなり、次の展開が読め ない不確実性も高まっています。従来のいわゆる日本的な経営スタイルでは、このような状 況に対して迅速かつ柔軟な対応が難しい場面も多くなりました。その意味でも、多様な人材 を組織に取り入れ、彼らの力を最大限に活かす経営が必要とされています。

顧客ニーズの多様化と消費行動の変化

インターネットの登場とその後のSNS の普及により、人々の価値観や消費行動は多様化、 かつ細分化しました。いわゆる「マス層」と呼ばれる大集団の概念は薄れ、一律のアプロー チではなく個々の要望に合った製品やサービスが求められるようになっています。

また、消費者と企業のコミュニケーションが市場に見える形で行われるようになり、情報の 拡散が大きな影響を持つようになりました。企業がこの変化に対応するためには、多様なニ ーズの理解と柔軟な発想・行動が必要で、様々なバックグラウンドや視点を持つ人材が活躍 できるダイバーシティ経営が注目される要因となっています。

ダイバーシティ経営のメリット

ダイバーシティ経営のメリット

多様な人材が集まるダイバーシティ経営には、コンフリクト(争い・衝突)のリスクが増えるなどのマイナス面もありますが、困難を乗り越えたときに享受できるメリットは大きなものとなります。

課題解決能力の向上とイノベーションの創出

ダイバーシティ経営では、異なるバックグラウンドや視点を持つ多様な人材が協力しあうことで、課題へのアプローチ方法や対応スキルの組み合わせが多くなり、より柔軟で効果的な解決策をとれる可能性が高くなります。

また、多様な人材が集まる組織には、新しい技術やアイデアを抵抗なく受け入れる素地ができています。専門知識や経験が異なる人々が集まることで新たな発想も生まれやすく、これが既存の概念にはない製品やサービスを生み出す源泉となります。

人材確保と定着率の向上

ダイバーシティ経営は「多様な人材の活躍を目指す」経営であるため、人材確保に関しては採用候補の母集団が増えるという直接的な効果があります。それに加えて、以下の理由により優秀な人材を採用できる可能性も高くなります。

自分の意思で判断し行動できる「自律型人材」などの優秀な人材は、自身の持つ独自性やアイデアが活かされ、評価される環境を求めています。また、自身の成長やキャリア選択についても、自らの責任で積極的に関わっていくという姿勢を持っています。これは多様な人材の独自性に価値を見いだすダイバーシティ経営と非常に相性がよく、互いに「求める人材」「求める組織」として定着率の向上も期待できます。

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企業としての信頼性向上

多様な人材を受け入れ、排除ではなく包摂(インクルージョン)を目指すダイバーシティ経 営は、社会に対してポジティブなメッセージとなります。これは働き手や消費者だけでなく、取引先や投資家などからの評価の向上にもつながります。

近年は、企業の社会的責任(CSR)や環境・社会・ガバナンス(ESG)を考慮した事業活動を評価する動きが活発で、採用や資金調達などさまざまな企業活動に影響を与えています。ダイバーシティ経営への取り組みは、企業の信頼性を向上させ、こうした側面からの支持を受けやすくなるメリットがあります。

ダイバーシティ経営推進の重要なポイント

ダイバーシティ経営推進の重要なポイント

ダイバーシティ経営を推進するためには、多様な人材が組織に受け入れられる環境・風土を作っていくことが重要です。そのためには経営戦略の明確化、人事制度やマネジメントの改革、従業員のマインドセットを適合するものに変えていくなどの対応が必要になります。

経営戦略としての明確な位置づけ

ダイバーシティ経営を推進するためには、その意義や目指す成果を明確にし、理念や経営戦略として浸透させていくことが重要です。

多様性を尊重するダイバーシティ経営では、数多くの考え方や価値観を受け入れることになりますが、当然すべての要望に100%応えることはできません。異なる見解の選択を迫られることも多くなります。意見をまとめるには、議論の集約や着地点を探るためのよりどころとなる指針が必要になります。それが「理念」や目指すべき方向を示す「経営戦略」です。

これには経営層のダイバーシティ経営への深い理解とコミットメントが必要になります。推進への強い意志のもと、「なぜダイバーシティ経営なのか」「そのために何が必要なのか」という理由や方向性を明確にし、分かりやすく何度も発信していくことが重要です。

人事制度の変更や働き方改革

日本企業、特に大企業の人事制度は、配属先や勤務地を定めず新卒を採用し、残業前提のフルタイム勤務、そして昇進昇格を動機付けとしてキャリア選択を企業が管理するというスタイルが一般的でした。しかし、多様性を尊重するダイバーシティ経営において、このような同質性人材を前提としたシステムは機能しづらく、人事制度の変更や働き方改革が必要になります。

具体的な制度として、ジョブ型雇用や勤務地限定制度、時短勤務などはすでに導入が進んでおり、近年ではリモート勤務も広がりを見せています。これらは多様な人材の活用において不可欠なものではありますが、ダイバーシティ経営の実現に十分とはいえません。問題の一つは、これらの制度が多くの企業で従来の人事管理システムの「補助」として導入されていることです。

メインとなる人事制度が「会社にフルコミットできる人材」を想定した内容のままだと、組織にも個人にも、そちらが「本流」で、多様な勤務制度を利用する社員は「傍流」という意識が生まれます。これは多様性を尊重する組織風土形成の妨げになります。人事制度の改革は簡単なことではありませんが、多様な人材が活躍できるダイバーシティ経営の実現には、従来の前提で作られた制度からの脱却が必要です。

管理職のマネジメント改革

ダイバーシティ経営では多様な人材をマネジメントできる管理職の存在が重要で、成否に大きな影響を及ぼします。

かつての日本企業で見られた同質性人材中心の組織では、管理職自身の経験に照らして“叱咤激励”することがマネジメントとされることもありました。これは属性や働き方が「仕事中心の価値観を持つ日本人男性」に偏っていたために可能だった手法です。現在では女性登用や外国籍社員の採用も進み、タイプの違う部下への対応や「傾聴」を軸としたメンタルケアが重視されるようになりましたが、ダイバーシティ経営ではさらにその幅が広がることになります。管理職自身の経験や価値観の“外”にいる部下(しかも多様な)を理解し、マネジメントする必要があるのです。部下一人ひとりに対して、より深く、個別に違う対応が求められます。 

職場の心理的安全性確保

多様性が拡大した組織では、部下が安心して自分の意見や価値観を表明できる職場風土が重要なものとなります。これは管理職と部下の関係においてだけでなく、同じ職場で働く同僚との間にもいえることです。

少数意見や価値観が否定されず、多数派に迎合しなくてもいい「心理的安全性」が担保された職場では、皆が気兼ねなく意見を交わすことができます。これは、多様なバックボーンやスキルの活用を目指すダイバーシティ経営の中核を成す部分といってもいいでしょう。この「心理的安全性」が確保された職場作りは、現場のマネジメントを行う管理職が果たすべ き重要な役割です。

心理的安全性についてはこちらの記事で言及しています 

  チームメンバーは言いたいことが言えてますか? いま、「心理的安全性」という言葉がネットメディアや雑誌に溢れています。しかし、心理的安全性をきちんと理解している人や実践に取り組んでいる人は、それほど多くないように感じます。 心理的安全性とは、誰もが自分の考えや感情について気兼ねなく発言できることです。職場に心理的安全性があれば、ちょっと厳しいことを言いあったり、本音を隠さずに話しあえたりできるようになります。 今回は、心理的安全性がなぜ求められているのか、どうすれば実現できるのかを、心理的安全性の研究者であるエイミー・エドモンドソン氏の著書『恐れのない組織』(英治出版)を参考にしながら、探ってみたいと思います。 【パーソルエクセルHRパートナーズ】人材派遣・人材紹介会社

従業員の「自律」と多様性理解

ダイバーシティ経営は、人材の多様性、つまり一人ひとり違う個性そのものに価値を見いだす経営手法です。組織に合わせて独自性が埋もれてしまうようでは、新しい価値の創造や個性同士がぶつかって生まれる相乗効果は得られません。それぞれ違う考え方や働き方を最大限尊重する必要があります。しかしこれは、全体の調和を無視して個人の自己主張を組織がすべて受け入れるという意味ではありません。自分勝手な解釈で権利を主張する人材ばかりでは、多様性を活かす経営ができないのは明らかなことです。

経営戦略に沿った組織の目標があり、そのなかで多様な能力や個性が求められていること。また、多様性が尊重される環境は自らの行動によって維持されること。ダイバーシティ経営に必要な人材とは、野放しにされた個性や独自性を「自由」に振る舞う個人ではなく、自身の個性や独自性を自覚したうえで、それを組織貢献に結びつけようとする「自律」した個人なのです。このことを従業員全員が理解し、日々真摯に取り組んでいく必要があります。

従来の日本的経営が色濃く残る組織では、このような自律型人材が少ない傾向にありますが、人事制度や組織風土を変えていくことで、自律した個人としての自覚を促すことは可能です。

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即効性はなくとも将来を見据えた取り組みを

即効性はなくとも将来を見据えた取り組みを

ダイバーシティ経営は、実行すれば即座に成果が得られるといったものではありません。経営効果につなげるためには、多くの場合マネジメントや人事制度の大きな改革が必要であり、また、従業員への多様性理解の浸透にも時間がかかります。基本的に即効性がないうえに立ちはだかる障害も多く、有効性に疑念を抱かれて今までの同質性人材による運営に戻 ろうとする力も働きがちです。

しかしながら、今後の企業経営において人材の多様化が今まで以上に進むことは容易に想像できます。ダイバーシティの推進にさまざまなリスクがあるとしても、多様な人材が活躍できる組織へと変革を進めておくことは極めて重要です。将来を見据えて取り組んでいきましょう。

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