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【企業向け】リスキリングがうまくいかない理由と対処法を解説

AIによる自動化の普及でDXの流れが加速している現在、デジタル人材確保のため「リスキリング」に取り組む企業が増えています。

しかし、リスキリング施策を計画あるいは実施したものの、「社員が期待通りに学んでくれない」「学習する時間が取れない」など、企業と従業員の双方から思うようにリスキリングが進まないという声も聞かれます。

そこで本記事では、リスキリングを推進する企業や担当者向けに「リスキリングがうまくいかない理由」としてよくあるパターンをまとめました。それぞれ原因と対処法について詳しく解説していきます。

目次[非表示]

  1. 1.リスキリングがうまくいかない理由
    1. 1.1.「学び」や「スキル習得」自体が目的になっている
    2. 1.2.個人の自主性、やる気に任せすぎている
    3. 1.3.学習環境や制度が整っていない
    4. 1.4.リスキリングの目的や必要性が本人以外に周知されていない
  2. 2.まとめ:リスキリングが継続する仕組み・風土をつくるには

リスキリングがうまくいかない理由

リスキリングがうまくいかない理由

計画通りにリスキリングが進まない場合、以下のような施策を行っている(または行っていない)ことがあります。

「学び」や「スキル習得」自体が目的になっている

リスキリングにおいて従業員のスキル習得は、それ自体が目的ではなく、あくまで企業の課題解決のための手段です。新しいスキルを習得しても、業務で活用されなければ企業に変化は訪れません。獲得したスキルを使って何をするのか、成果ポイントはどこにあるのか、目的をはっきりさせておく必要があります。その目的次第で、企業側がどのように実践の場(新設部署やポジションなど)を設けるのかも決まってきます。

「学び」そのものが目的となってしまう原因のひとつには、リスキリングのプランニングを最初から現場の研修担当者に任せるというものがあります。研修担当者の職位にもよりますが、多くは教育訓練の企画や調整は得意とするものの、人材マネジメントにおける全体設計の権限がなく、経営課題とその解決のためにリスキリングをどう位置づけるのかの観点が不足しがちです。そのため、従業員に「何を学ばせるか」「どう学ばせるか」という部分だけに焦点が当たり、講座や学習ツール選定などの局所的な議論が続くケースが多くあります。

リスキリングは自己啓発の推進活動ではなく、企業主体で行う事業戦略のひとつです。今後の方向性を企業側から具体的に明示し、リスキリングの目的をしっかり定めた上でプランニングを行いましょう。

個人の自主性、やる気に任せすぎている

キャリア自律やモチベーション3.0(ダニエル・ピンク)などの言葉に表れているように、近年では従業員のキャリアアップ・スキルアップに「内発的動機づけ」を重視する傾向があります。個人がキャリアの方向を決め、自ら積極的に取り組める分野のスキル開発を行うことが望ましいという考え方です。

これは個人のキャリア開発においてはもちろん大切な観点ですが、そのままリスキリングに当てはめるのは、主に2つの点で問題があります。

第一に、リスキリングは社会や市場環境の変化に対応するために、従業員のスキルや働き方を変えるプロセスです。発想の始点は個人ではなく企業側のニーズにあります。よって、個人の希望は尊重しますが、スキル開発の方向性や具体的なプログラムの提供は企業主導で行わなくてはなりません。各人が好きな内容を好きな時間軸で学んでいては、人材戦略として機能しないまま、既存の業務にも影響がおよぶ可能性があります。

第二に、スキルの選定や学習スタイルを完全に個人の自主性に任せてしまうと、「学びの格差」が問題となります。そもそも日本の社会人は、世界的に見て学び行動が極端に少ないと言われており、自主的に学べる人はごくわずかです。個人のやる気や自主性に頼りすぎる施策は、「リスキリングが必要な人材ほど学ばない」という状況を生む可能性が高くなります。逆に学びに積極的な人材は、市場価値が高いスキルを選んで身に付け、学ばない・変化しない会社に見切りをつけて転職してしまうこともあり得ます。

これらを防ぐには、個人の意思は尊重しつつ、企業側でリスキリングプロセスをコントロールする必要があります。会社としてスキル開発の方向性や習得後のポジション・報酬を明確に提示すること、トレーニング中も進捗の確認や定期的な面談などを行い、身につけたスキルを実践できる業務に就くまでサポートすることなどが重要です。

学習環境や制度が整っていない

リスキリング施策の実行において、オンライン講座や集合研修などの学習コンテンツは十分に提供されることが多いのですが、それだけで施策がうまくいくことはまれです。計画通りにリスキリングを進めるには、勤務体系や業務量の調整、目標管理の見直し、金銭的報酬や希望部署への異動などの人事施策による後押しが必要になります。

まず勤務についてですが、今までと同じ勤務時間、業務量のままでリスキリングを推進しようとしても、ほとんどの人は日常業務に追われて学習を進められません。リスキリングには時間の余白が必要です。「学習は業務時間外に行うもの」という考え方もありますが、リスキリングは市場環境の変化に合わせて行う企業の人材戦略であるため、就業時間内に行う「業務」に当たります。学習を進められるよう、勤務時間や業務量を調整するのは企業側の役割です。目標管理についても同様に、負荷を下げる、あるいは分散させる必要があるでしょう。業績に直結する営業目標の調整などは大変な困難を伴いますが、従業員への過剰な負担を続けたまま精神論・根性論で進めようとしても、リスキリング施策はうまくいきません。

次に、報酬や異動を含めた新しい人事制度を整える必要があります。スキルを身に付けることで何が変わるのかが見えない状況では、学習に向かうモチベーションの維持は困難です。具体的な金銭的報酬や新しいポジションの提示などが必要です。また、リスキリングはスキルを習得して終わりではなく、新たな職務に就くことまでを含み、業務で実践されて初めて「成果」として表れます。その意味でも、会社が新たな職務・ポジションを用意することは重要です。すぐに昇格や異動が難しい場合でも、社内副業やインターン、ワークショップ講師など、学んだ内容を実践できる場を用意しておきましょう。

リスキリングの目的や必要性が本人以外に周知されていない

対象者を絞って行うリスキリングの場合、上司や同僚など、周りの理解と協力が不可欠です。新しいスキルを習得するには、研修受講のためのスケジュール調整、プロジェクト担当の一時的な変更などがほぼ確実に生じるためです。周囲や他部署の理解と協力がなければ、学習者本人は既存業務に注力するしかなく、学習を進めることは難しくなるでしょう。

また、学習中だけでなく、スキルを習得したあとの実践時にも周囲の理解の有無は影響します。言うまでもなく、会社組織で仕事をする以上、一人で完結する仕事はほとんどありません。そのため、新たに身に付けたスキルを実践で使おうとすると、どうしても自分だけでなく周囲にも変化を強制する形になります。

例えばデータサイエンスを学んだ従業員が、自社の営業日報を分析して商談成功の要素を抽出、ナレッジ化して共有する業務改善に取りかかったとします。この場合、もし営業日報が各人の自由記述でバラバラであれば、ある程度フォーマットを統一してもらう必要が生じます。内容によっては商談時のヒアリングのやり方にも影響するかもしれません。このような時に、リスキリングの目的や必要性が周知されていなければ、周りからの協力は得にくいでしょう。また、スキルを習得した本人にとっても、調整や依頼事項など、スキルを実践する以前の面倒ごとが多くなると、よりよい未来のための行動と分かっていても変化に対してネガティブになってしまいます。

上記は単純化した例ですが、互いの業務に対する遠慮などの心理的抵抗が残る状況での変革が難しいことは、組織人として多くの方が実感するところではないでしょうか。新しいスキルを身につけても、一人で力を発揮するのは困難です。リスキリングの目的や意義は、対象者だけでなく周囲へも会社側から継続的に発信していきましょう。

まとめ:リスキリングが継続する仕組み・風土をつくるには

リスキリングが継続する仕組み・風土をつくるには

本記事でここまで挙げてきた「リスキリングがうまくいかない理由」から、失敗を避けてリスキリング施策の成果を出すには以下の2点がポイントであることが分かります。

  • リスキリングを業務として定義する
  • リスキリングが当たり前の風土をつくる

リスキリングを業務として扱うことについては、企業としてしっかり定義し、従業員に説明する必要があります。繰り返しになりますが、リスキリングは企業の戦略転換に合わせて行う既存の人的資源の活用策です。福利厚生の一環として行うスキルアップ・キャリアアップの推進活動とは分けて考えるべきです。リスキリングプランにおいては、スキル獲得のための学習は勤務として管理し、獲得後の昇給・昇格や新部署への配属など、各種処遇も制度として整えていくことが大切です。

とはいえ、学習コンテンツや環境整備コストに加え、スキル獲得のために通常業務時間を減らし、さらに報酬や新ポストの設置までとなると、膨大な手間と費用がかかります。とても全てには手が出せないというのも、もっともなことです。しかし施策が成功し、リスキリングが常に循環する組織になれば、ビジネス環境の変化に素早く適応して市場を獲る動きが可能になります。新規事業のために大きなリスクを取り、かつコストをかけて外部人材を調達する必要がなくなり、内部人材でチャレンジを繰り返すことができます。また、新規採用においても、リスキリングが業務に組み込まれている企業は応募者にとって魅力的に映り、学びに積極的な人材を採用できる可能性が高くなります。これらは結果としてコストの削減、業績の拡大に繋がります。

次に、リスキリングする企業風土づくりについては、学習内容や実践結果に対しての上司や同僚からのフィードバック、学習者同士の対話などが発生しやすい仕組みを作ることが重要です。つまり「学び」を通したコミュニティづくりです。様々なコミュニケーションツールが安価で利用できる現代では、こちらの仕組みは格段に作りやすくなっているはずです。

コミュニティの効果は、周囲からのサポートを得やすくなるという点だけではなく、学びの深さや獲得したスキルの実践活用時にまでよい影響を与えます。仕事における学びや成長とは、一方通行で与えられたものをひたすらインプットする作業ではなく、他者との相互作用のなかで深化し発展していくものだからです。企業内に、リスキリングが業務の一環として常に身近にある“空気”を醸成するように務めましょう。

これらすべてを実践するのは簡単なことではありませんが、自ら学び変化していく組織を作ることが、今後のビジネス環境のなかで企業の発展に貢献することは間違いないでしょう。一歩ずつ着実に、リスキリング施策を実行していきましょう。


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