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リスキリングとは?必須とされる理由と導入の手順、ポイントを解説

リスキリングとは、今とは異なる業務の遂行に必要なスキルを新たに身につけるプロセスのことです。

日本においては狭義の「学び直し」と捉えられることもありますが、実施責任の所在(リスキリングの場合は企業側にあります)や、新しい職務・職業に就くことまで定義に含む点など、従来の社会人教育とは領域が異なる言葉として使われます。

この記事ではリスキリングを検討中の企業や担当者向けに、リスキリングが広まった背景、リスキリングプランの組み方・進め方、施策実行時のポイントなどを解説していきます。

目次[非表示]

  1. 1.リスキリングが広まった背景
  2. 2.リスキリングの計画と実施までのステップ
    1. 2.1.1、現状の評価と目標の設定
    2. 2.2.2、必要になる新設部署や職務、スキル
    3. 2.3.3、従業員の現スキルとニーズの把握
    4. 2.4.4、カリキュラムの設計とリソースの確保
    5. 2.5.5、学習のモニタリングと実践の場の提供
    6. 2.6.リスキリングは継続的な取り組み
  3. 3.リスキリングを成功に導くポイント
    1. 3.1.スキル獲得後の職務やポジションを明確にする
    2. 3.2.リスキリングは「業務」として企業が主導する
    3. 3.3.学びのコミュニティづくりを促進する
  4. 4.リスキリングが継続する組織へ

リスキリングが広まった背景

リスキリングが広まった背景

DXやAI活用などの潮流により、新たに必要とされるスキルや職種が生まれる一方、既存の技術や職務が代替される「技術的失業」への対応が世界中の企業で急務となっています。また、コロナ禍を経て、働く人々の就業意識も大きく変化し、職場環境や個人のキャリアに対する価値観が従来の延長では捉えきれなくなりました。これらの流れのなかで一気に広がったのが、産業構造の変化に対応した労働移動を促すリスキリングです。

「生涯学習」や「リカレント教育」の派生とみなされることもありますが、これらは個人の学習・就業サイクルを対象としており、社会環境の変化に対応するために発展してきたリスキリングとは背景・目的ともに異なります。

ただ、言葉の定義がどうあれ、ブームを起こしてでも社会全体としてリスキリングを進めざるを得ないところまで来ているのが実情です。日本でも国の政策として推進することが明言されています。この流れを自社に取り込み、変化創出の糧とすることが肝要となります。

リスキリングの計画と実施までのステップ

リスキリングの計画と実施までのステップ

リスキリングのプランニングと実施までのプロセスは、以下のステップに分けられます

  1. 現状の評価と目標の設定
  2. 必要になる新設部署や職務、スキル
  3. 従業員の現スキルとニーズの把握
  4. カリキュラムの設計とリソースの確保
  5. 学習のモニタリングと実践の場の提供メンバーを信頼し、コントロールを手放してみる


自社の状況により順番が前後することはありますが、最初のステップは必ず「現状の評価と目標の設定」からです。

1、現状の評価と目標の設定

最初に自社の経営状況の評価と、今後向かうべき姿を明確にします。リスキリングは経営のありかた、会社の方向性を大きく変えるための手段として、現在の従業員のスキルや働き方を変えるプロセスです。よって、向かうべき姿が明確になっていなければプランニングもできません。リスキリングの目標は経営課題と連動させ、売上構成や収益構造の変化を伴った目標として設定します。

2、必要になる新設部署や職務、スキル

自社の戦略と目標に合わせて、今後の重点領域を特定していきます。その際は必要なスキルを考えるだけでなく、具体的なポジション、場合によっては部署の新設も検討して、従業員にも公開します。

従業員にしてみれば、「今後必要になるスキル」をただ提示されても、今の仕事では使わず、学んだらどうなるのか分からない状況では学びへのモチベーションは上がりません。従来の仕事の延長である今までの研修と同じ効果しか得られないでしょう。リスキリングは、変化する市場に合わせて会社の姿を変えるため、現在の従業員を入れ替えずに対応する手段です。具体的なポジションや新設部署があることで、会社がどこへ向かおうとしているのかはっきり伝えることもできます。

3、従業員の現スキルとニーズの把握

次に、従業員が現在持っているスキルを把握します。タレントマネジメントシステムなどを導入済みであれば、すでに情報はまとまっているはずです。そうでなければ、履歴書や保有資格、これまでの人事評価、目標管理シートなどの情報を活用します。

従業員のスキルの棚卸しができたら、個人面談を行って本人の意思を聞き、リスキリングへの意欲や必要なトレーニングを把握します。会社規模によっては一人ひとりへのヒアリングが難しい場合もあると思いますが、従業員が自らのキャリアを発展させることに対する意欲を高めるためにも、意思を尊重することは重要です。

また、社内に「学ぶ人だけが学んでいる」ような漫然とした空気が広がるのを防ぐ意味もあります。会社側がきちんと面談やカウンセリングの場を設けて意思確認することで、学ばない人にも自らが「学ばない」選択をしたと認識させることができます。これは、後の配置換えや昇進・昇格などの際に、不満を減らすことにつながります。

4、カリキュラムの設計とリソースの確保

次はリスキリングプログラムの設計です。各従業員が必要なスキルを習得できるよう、オンライン講座やワークショップ、インストラクター主導のトレーニングなど、さまざまな教育手法を検討します。

自社内でカリキュラムを開発する場合、複数部署を混ぜたグループで学ぶワークショップの開催は、社内の“異文化交流”にもつながるので効果的です。ほかにはベテラン従業員がメンターとなるOJTもありますが、そもそもリスキリングは組織が持つ既存スキルセットを新しいものに入れ替えるために行うので、対象分野に経験のある従業員がいないことも考えられます。その場合は、カリキュラムや具体的な学習コンテンツを自社内で開発するより、外部のラーニングシステムや人材育成支援を利用することで、費用と時間を節約できます。

いずれにせよ、リスキリングプログラムの実施には、思いのほかコストがかかります。「年に何回の研修にいくら」「eラーニング利用料がいくら」という個別の予算組みでは全体の設計ができず、形だけの“研修”になりかねません。リスキリングの目標を経営課題にしっかりリンクさせてグランドデザインを描き、リソースを確保しましょう。

5、学習のモニタリングと実践の場の提供

学習・トレーニングの環境が整ったら、リスキリングプログラムを実施します。その際は、各人の学習進捗が一覧で確認でき、社内の誰もが見られる仕組みがあるといいでしょう。他者から見られること、また、ほかの人の進捗を見ることで、学習への動機付けにつながります。ラーニングマネジメントシステム(LMS)にはこれらを一元管理できる機能があるので、導入済みであれば簡単に学習状況を把握できます。

また、身につけたスキルは発揮する場が必要です。実践の場としては、社内副業やインターンのほか、ワークショップを開いて学んだ内容の講師を担当してもらう方法などがあります。これは自身の学びを深めることと周りへの啓蒙、次世代の育成など、一度に多くの目的を達成できます。ただ、リスキリングはアップスキリングや狭義の学び直しとは違い、「新しく身につけたスキルを活用する業務に就く」ことまでを定義に含みます。重要なのは実務における行動変化です。そのため、本来は会社側で新しい職場や業務、ポジションを用意する必要があります。ワークショップの開催自体がリスキリングプログラムのゴールではないことには注意しましょう。

リスキリングは継続的な取り組み

リスキリングは一回限りの取り組みではなく、組織の継続的なプロセスとして取り組むべきものです。上にあげたステップを実行中に想定外の問題やビジネス環境の変化があれば、その都度、柔軟にプログラムを見直し改善を続けていきます。また、身につけたスキルを活用して具体的に業務行動として実践しなければ、会社に変化は訪れません。リスキリングは学びだけが目的ではなく実践までがセットであることを、取り組む全員が理解できるようにしておきましょう。

リスキリングを成功に導くポイント

リスキリングを成功に導くポイント

リスキリング施策の実行にあたり、前述したステップを進めるための重要なポイントを解説します。

スキル獲得後の職務やポジションを明確にする

リスキリングプランを実行できるということは、これから起こる社内の業務プロセスの変化、新しく取り組むビジネスの方向性などがすでに決まっていることを意味します(そうでなければリスキリングプランとは呼べません)。よって、リスキリング後の職務変更、また部署異動やポジションの調整についても計画されているはずで、これらを対象者にも明確に伝えることが重要です。

とはいえ、スキルを身につけたらポジションが変わる、異動が約束されると明言するのは避けたいのが組織としての本音でしょう。人事管理上のリスクになるためです。しかし、スキル獲得後にどのような変化が自身に訪れるのか、学習が何の役に立つのかが分かっているほうが、リスキリングへの意欲は高まるはずです。従業員にとって肝心な部分を曖昧にしたまま現在の職務とは違うスキルのトレーニングを促しても、会社の“本気度”は伝わりません。従業員のなかに不安や不信感が生じる可能性もあります。これではリスキリングプログラムを実施しても、望む効果を得ることは難しくなります。

リスキリング後の職務やポジションを開示できないのなら、もう一度会社の将来・ビジョンを練り直してから、リスキリングプログラムを計画するようにしましょう。

リスキリングは「業務」として企業が主導する

日本の企業には、仕事のための学習は業務時間外に行うものという意識が根強くあり、リスキリングも同一視されている場合があります。しかし、リスキリングは社会環境の大きな変化に対応するため、会社が必要とする新たなスキルを従業員に習得させるために行うもので、従業員にとっては業務の一環です。そのため、業務時間内に行うのが本来の姿です。

また、業務内で行うとしても、リスキリングはほとんどが現在の業務に加えて行われるため、会社がきちんと時間を定めなければ、従業員はプライベートの時間を削って行うしかありません。この負担を従業員個人に強いても、耐えていけるのはプライベートの条件(家庭など)が整っているか、「学び」に慣れた人材だけになります。本当にリスキリングが必要な従業員は学べないままで、プロジェクトの成果が出ない結果になりかねません。

先述したリスキリングのポイント、「スキル獲得後の職務やポジションを明確にする」とセットで、リスキリングのための「学習環境」と、身につけたスキルを「発揮できる場」を企業主導で整えておくことが重要です。

学びのコミュニティづくりを促進する

リスキリングプランで提供される学習コンテンツとして、オンライン講座が主軸となることは多くあります。時間の制約を受けず、ひとりでコツコツと学習を進められるオンライン講座は優れた教材ではありますが、それだけでは修了率が極めて低いという特徴があります。個人の自由意志だけでは、最後まで学習のモチベーションを保つことは難しいのです。

この問題への対応としては、学習の進捗や理解について情報交換でき、他者と関わり合いながら学べる場(コミュニティ)を用意することが効果的です。気軽に話せるコミュニティの存在は、リスキリング対象者が最後まで学習を進める大きな助けになります。

方法のひとつとして、ラーニングマネジメントシステム(LMS)の利用があります。多くのシステムは、ほかの受講生の進捗が見られる機能や、受講生同士がディスカッションできる機能を備えています。また、ライブ配信機能を利用して、決まった周期でオンライン一斉講義を行うのも効果的です。システムを利用しない場合は、定期的に集まってワークショップを開くなどの方法もあります。

学びのコミュニティ作りは、今後の組織風土の土台としても重要です。共に学ぶ仲間づくりができるよう、企業側が積極的にサポートしましょう。

リスキリングが継続する組織へ

リスキリングが継続する組織へ

リスキリングする組織としての風土が醸成されるかどうかは、会社が「場」をどれだけ用意できるかにかかっています。

この記事のまとめにもなりますが、「場」とは次の3つを指します。

  • 学習環境
  • コミュニティ
  • 新職務(ポジション)

これら学習環境の整備、コミュニティづくり、新しい職務やポジションをセットで用意することが重要です。

リスキリングは、企業に変化を生み出すために行うものです。そして企業の変化は、個々人にスキルを詰め込んで配置換えをするだけで起こせるような簡単なものではありません。学びを通して、従業員同士が普段の業務とは違うレイヤーで関わり合い、高め合うなかで生じる行動の変化。それらが組織全体に波及し、大きな“うねり”となるまで根気よく行う必要があります。この変化を創り出し育てていくことが、リスキリングの目的といえるでしょう。

自社のリソースによっては、リスキリング施策の設計・実行が難しい部分もあると思いますが、ツールや外部コンサルティングの力を借りるなどして、着実に歩を進めていきましょう。


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